ちなみにローゼンフェルドはアメリカにおける自己愛の理論についても意識していました。そしてそれなりのコメントを残しています。それによれば、
「カンバーグは攻撃性と羨望の重要性を強調しているが、私の考えはもっと徹底している。」
「コフートは自己愛憤怒について書いているが、私の主張する破壊的な自己愛とはほとんど関係がない。」
いやはや、散々ですが、この批判はある程度理解できることです。ただし私の観点からは、ローゼンフェルドとカンバーグは類似しているところがとても多いということです。なぜなら両者ともクラインの投影同一化の概念をその下敷きにしているからです。ローゼンフェルドは、「コフートはもうお話にならない」という感じで切り捨てています。深層にあるものを扱わないのは本物ではないという態度と言えるでしょう。いやはやヨーロッパ人は怖い。といってもコフートももともとはウィーン出身のオーストリア人ですが。
さてローゼンフェルドの後のクライン派の理論の展開についても一言触れておきます。
クライン派における陰性治療反応研究の一つの到達点といえる概念としての自己愛構造体です。羨望および死の本能への恐れから、防衛として自己愛的な対象関係を発達させた患者は、独立した機能を持つ構造体(自己愛構造体)を持つに至り、それは妄想-分裂ポジションにおける迫害不安と、抑うつポジションにおける抑うつ不安から個人を守るが、成熟した大人としてはあまりに自己愛的な対象関係を構築する、というわけです。その構造体は健康な自己を支配し、抑うつポジションへの移行を妨げるのです。
ということでこの「自己愛構造体narcissistic organization」という言葉を誰が言い出したのかと調べると、なんとフロイトが言い出しているのです。驚きですね。スタンダードエディションの索引を使ってみた結果がそうでした。対象関係に踏み出す前の状態、というような感じで、全部で3回使っているだけで、あまり深い意味は与えていませんが、とにかく索引にはこの用語が出てきます。その後Glover, Spitz, Rosenfeld, Steiner などが使っていることになっています。ただしそれを整理して病理構造体(病理的組織化)と呼び、より広い枠組みの患者に見られる第三のポジションとして定式化したのはジョン・シュタイナー先生ということになります。