2017年6月21日水曜日

ほめる 9

患者の喜びを喜ぶ
結局純粋な「ほめたい願望」は患者の喜びを自分のものとする心性と不可分と言うことになろう。多くのサービス業(広義のそれはおそらく心理療法家を含むであろう)に携わる人が異口同音に言うことがある。「私の料理をおいしいと言ってもらえるほどの幸せはない」と料理人が言う。「私が指導している生徒の記録が伸びると、自分のことのように嬉しい」と陸上の選手のコーチが言う。彼らが自らの仕事について持つ責任感や喜びは、自分のサービスの受益者の喜びをわがことにするという能力と密接にかかわっていると考えられるのだ。これらは彼らにとって必須とさえ言えるのではないだろうか。
同様に治療者は基本的には患者に喜んでもらえると嬉しい。もちろん精神療法には、料理のおいしさやスポーツの記録のような、目に見える形で具体的に評価が出来るものはあまりない。しかし料理人やコーチにとってそれほど大切な能力は、いざ精神療法を論じるときになると、ほとんど考慮されたり論じられたりすることがないのはなぜなのだろうか? やはりこの種の感情を持つことについては、あからさまな抵抗が存在するに違いないであろう。

患者の喜びを喜ぶという心性は、実はほめたいという願望とも深く関連するであろう。ほめることは患者の喜びを喚起するであろう。しかもそれは純粋に自分が感動した患者の成長に関することで嘘や偽りはないということになる。