2017年5月14日日曜日

未収録論文 ⑧

ボーダーラインと解離との相違について、すごくまじめに書いた論文。もう5年も前だ。これも散逸しかかっている。

BPDと解離性障害
(柴山雅俊、松本雅彦編:解離の病理―自己・世界・時代 岩崎学術出版社 2012年)
 解離性障害、特に解離性同一性障害(dissociative identity disorder, 以下、DID)と境界性パーソナリティ障害(borderline personality disorder, 以下、BPD)との関連について考察するのが本稿の目的である。そこにはBPDの精神病理や臨床所見が解離性障害と深い関連性を持つという前提があると受け取られるかもしれない。しかし私がこのテーマについて論じる立場は複雑であることを最初に述べておきたい。というのも私自身はBPDが果たして解離性障害と深く関連しているかについては確信が持てないからである。以下に述べるとおり、BPDとDIDは、その病態としてはある意味では対極的な関係を有するのである。
 ただし近年の欧米の文献は、従来も、そして最近に至っても両者の深い関連性を強調する傾向にある。そこではむしろDIDとBPDは同類であるという主張、あるいはBPDと解離性障害は全体としてトラウマ関連障害としてまとめあげられるべきであるという意見、そしてスプリッティングは解離の一種であるという主張が見られるのである。さらにはDIDの72%がBPDの診断を満たすという疫学的なデータも報告されている(Sar, et al 2006)。私自身の臨床からも、解離性障害とBPDが混同されやすい傾向は感じており、また両者の病理が混在しているようなケースに出会い戸惑うこともまれではない。そのため本テーマは十分に論じる価値があるものと考える。
(ここまででまだ序文。ここからが長くなるので、以下略)