2017年5月13日土曜日

未収録論文 ⑦

こんな論文も書いたなあ。

医原性という視点からの境界性パーソナリティ障害
(こころの科学154号 境界性パーソナリティ障 害 岡崎祐士 (編集), 青木省三 (編集), 白波瀬丈一郎 (編集) 2010年 所収)

はじめに


 本稿は「医原性という視点からの境界性パーソナリティ障害(以下BPDと表記する)」というテーマで論じる。ここで医原性のBPDとは、医師ないしは治療者により二次的、人工的に作り上げられたBPDという意味である。ただしここでいう「作り上げられる」には、以下に述べるように実際の病理が作られてしまうという意味と同時に、もともとあった病理がさらに悪化したり、実際はBPDとはいえないものが、そのように誤診ないし誤認されてしまうという場合も含むことにする。
 BPDの臨床を考える上で、この医原性の問題は非常に重要なテーマである。後に述べるとおり、現在の精神医学におけるBPD のあり方を考える際にも医原性の問題は現代的なテーマとなりつつある。しかしこの問題はまたBPD という概念がネガティブなイメージや差別的なニュアンスを担い始めた時に、すでに存在していたとも考えられる。歴史的には、類似の例として「ヒステリー」の概念があげられるだろう。ヒステリーは「本当の病気ではないもの」、「気のせい」、「詐病」、あるいは「女性特有の障害」として、やや侮蔑的な意味で用いられたという経緯があり、治療者側のそのような偏見が、ヒステリーという診断の下され方に大きく影響していた可能性がある。そして現代においては BPD が同様の役割を背負わされているというところがあるのだ。

(すごく長くなるので、やむを得ず以下略)