<有病率> DSM-5によればBPDの人口有病率の中央値は1,6%とされているが, 5.9%という高さに達することもある。BPD障害の有病率は,一次医療場面では約6%,精神科外来診療所の受診者の約10%、精神科入院患者の約20%とされる。
<原因>
BPDの概念が生まれた背景には精神分析理論があったこともあり、そこに生育環境を重んじる立場が主流であった。それらはM.クラインの理論を援用したO.カンバークの理論や、M.マーラーを援用したJ.マスターソンらの理論があげられる。しかし結局はその原因は不明であり、生物学的要因や環境因の双方の複雑な関与を示唆する様々なデータが得られている。
生物学的要因
DSM-5には以下の記載がある。「BPDは、一般人口に比してこの障害をもつ人の生物学的第一度親族に約5倍多くみられる。また,物質使用障害、反社会性パーソナリテイ障害、抑うつ障害および双極性障害の家族性の危険も増加する。」(APA,
2013) 実際にBPDの生物学的な要因に関する研究は数多く、いずれも遺伝的な負因やその他の生物学的な要因の存在を示唆する結果を示している。
遺伝に関しての研究からは、BPDの遺伝率(heritability 表現型の全分散に対する遺伝分散の割合)が37%~69%であると報告されている。(Gunderson,J., Zanarini, M et al. (2011) Family
Study of Borderline Personality Disorder and Its Sectors of PsychopathologyArch
Gen Psychiatry. 68: 753–762.)このことはBPDが結局は遺伝と環境因が同程度の影響を与えているという理解を導く。
また脳画像の所見からは前帯状皮質および眼窩前頭皮質の反応性が低下している一方で、扁桃核においては逆に反応性が高まっていると報告される。(Schmahl, C., Bohus, M., et al. (2006). Neural correlates of antinociception in borderline personality disorder. Archives of General Psychiatry, 63(6), 659-667.,Siegle, G. J. (2007). Brain mechanisms of borderline personality disorder at the intersection of cognition, emotion, and the clinic. The American Journal of Psychiatry, 164(12), 1776-1779.)Goodman, M, Mascitelli, K., Triebwasser, J (2013)The Neurobiological Basis of Adolescent-onset Borderline Personality DisorderJ Can Acad Child Adolesc Psychiatry. 2013 Aug; 22(3): 212–219.
また脳画像の所見からは前帯状皮質および眼窩前頭皮質の反応性が低下している一方で、扁桃核においては逆に反応性が高まっていると報告される。(Schmahl, C., Bohus, M., et al. (2006). Neural correlates of antinociception in borderline personality disorder. Archives of General Psychiatry, 63(6), 659-667.,Siegle, G. J. (2007). Brain mechanisms of borderline personality disorder at the intersection of cognition, emotion, and the clinic. The American Journal of Psychiatry, 164(12), 1776-1779.)Goodman, M, Mascitelli, K., Triebwasser, J (2013)The Neurobiological Basis of Adolescent-onset Borderline Personality DisorderJ Can Acad Child Adolesc Psychiatry. 2013 Aug; 22(3): 212–219.
Gunderson,J., Zanarini, M et
al. (2011) Family Study of Borderline Personality Disorder and Its Sectors of
PsychopathologyArch Gen Psychiatry. 68: 753–762.
これらの脳画像の所見は、BPDの生物学的な要因を示すというよりは、上に見たBPDの病態が脳機能のレベルで示されていると考えるべきであろう。情緒のコントロールが難しくて感情に流されやすく、衝動性が高いということは、その時の脳の所見においては前頭前野の機能低下と扁桃核の反応性の昂進にそのまま対応していることになる。そのような脳機能の特徴は半ば遺伝に規定され、同時に以下に述べる環境要因によっても決定されると考えるべきであろう。
環境的要因
環境因に関しては米国のガンダーソンのグループによる研究が知られる。それによればBPDの91%に小児期の外傷体験が見られたという(Perry,1990)またBPDにおいては小児期における養育者からの離別、や虐待、ネグレクトが多いとされる(Zanarini,1989)。また我が国の研究(町沢)によれば、身体的虐待33%、性的虐待51%、情緒的虐待68%が報告されているが、彼は養育者の過干渉も指摘している。
また虐待をすべてのBPDの原因に帰することについては様々な見解がある。
「ガンダーソンは虐待が症状を生み出すのは、ネグレクトなど両親との持続する過度の葛藤があった場合のみとし、そのようなケースでは、環境に対する適応として症状が現れていると述べた(Gunderson, 1993)」← 禁断のウィキ様引用!!。
「リライト」すると、「ガンダーソンによれば、虐待そのものがBPDを生み出すのではなく、その素地となる両親との持続的なストレスが症状の発現の要因となっている(Gunderson, 1993)」これで「洗浄」は一応終えたことになるが、もちろん原典に当たって確かめなくてはならない。Wiki様は参考にさせていただいたということになる。
なお筆者の臨床体験からは、BPDにおける空虚感がしばしば「自分は親に望まれなかった」「親に決して愛されなかった」という報告や、それと対になる親への激しい恨みや怒りの表出と結びついていることを知ることが多い。そこにはBPDを有する人がポテンシャルとして持つ認知のゆがみや他者の心情を察することの限界が伺える。BPDの多くに発達障害的なニュアンスが感じられることは多くの臨床家から聞く事が多い。そしてそれが近年BPDの治療として知られるMBT(メンタライゼーションを基礎とする治療)の有効性にも繋がるものと思われる。このことはまた幼少時の虐待によるBPDの成立という短絡的な考え方よりは、(原因の特定されない)幼少時の親とのミスコミュニケーションやストレスによりBPDの病態が修飾される、というより広い視点へと繋がるであろうと思われる。
Perry,J.C.,Herman,J.L.,van
der Kolk,B.A.,& Hoke,L.A.
(1990). “Psychotherapy and psychological trauma in borderline personality
disorder”. Psychiatric Annals 20: 33-43.
Zanarini,M.C.,J.G.Gunderson,M.F.Marino,E.O.Schwartz,and
F.R. Frankenburg. (1989). “Childhood experiences of borderline
patients.”. Comprehensive
Psychiatry 30:
18-25.
Zanarini,M
C.,A.A.Williams,R.E.Lewis,R.B.Reich,S.C.Vera,M.F.Marino,et al. (1998). “Reported pathological
childhood experiences associated with the development of borderline personality
disorder.”. American
Journal of Psychiatry 154: 1101-1106.
町沢静男 (2005)『ボーダーラインの心の病理 ― 自己不確実に悩む人々』 創元社