2017年1月15日日曜日

BPD ⑥

ということで頑張って書いてみた。私のオリジナルの文章は以下の通り。

<原因>
BPDに関する議論が生じた背景には、それが精神分析において論じられ始めたこともあり、そこに生育環境を重んじる立場が主流であった。それらはクラインを援用したカンバークや、マーラーを援用したマスターソンらの理論があげられる。しかし結局はその原因は不明であり、生物学的要因や環境因の関与を示唆する様々なデータが得られている状況である。現在では以下のように論じられている。
<生物学的要因>
 DSM-5には以下のシンプルな記載があるのみである。「BPD障害は,一般人口に比して,この障害をもつ人の生物学的第一度親族に約5倍多くみられる。また,物質使用障害,反社会性パーソナリテイ障害,抑うつ障害および双極性障害の家族性の危険も増加する」.
実際にBPDの生物学的な要因に関する研究は数多く、いずれも遺伝的な負因やその他の生物学的な要因の存在を示唆する結果を示している。」APA, 2013)
遺伝に関しては、様々な研究をまとめると、BPDの遺伝率heritability (表現型の全分散に対する遺伝分散の割合」, つまり「集団内の個体間の違いがどれだけ遺伝的か?」)が、37%~69%であるというこのデータだけでいいではないか。(Gunderson,J., Zanarini, M et al. (2011) Family Study of Borderline Personality Disorder and Its Sectors of PsychopathologyArch Gen Psychiatry. 68: 753–762.
また脳画像の所見からは、とにかくACC(前帯状皮質)の反応性の低下という記載が目立つ。fMRIの所見では刺激に対するACC ,OFCの賦活反応が低下している所見が見られる。(Schmahl, C., Bohus, M., et al. (2006). Neural correlates of antinociception in borderline personality disorder. Archives of General Psychiatry, 63(6), 659-667.,Siegle, G. J. (2007). Brain mechanisms of borderline personality disorder at the intersection of cognition, emotion, and the clinic. The American Journal of Psychiatry, 164(12), 1776-1779.
逆に反応性が高まっているのが、扁桃核だ。(schmahl, 上の論文に同じ。)そのほか、以下の総説が参考になる。
Goodman, M,  Mascitelli, K., Triebwasser, J (2013The Neurobiological Basis of Adolescent-onset Borderline Personality DisorderJ Can Acad Child Adolesc Psychiatry. 2013 Aug; 22(3): 212–219.
Gunderson,J., Zanarini, M et al. (2011) Family Study of Borderline Personality Disorder and Its Sectors of PsychopathologyArch Gen Psychiatry. 68: 753–762.
これらからわかることは、遺伝要因が確かにあることはわかるが、画像所見に関しては、症状をなぞっているだけ、という解釈もできる。感情に流されやすく、衝動性が高いということは、その時の脳の所見においては前頭前野の機能低下と扁桃核の機能高進ということをそのまま意味している。そのうちどちらが先か、ということはこれだけでは言えないことになるのだ。