2017年1月1日日曜日

解離概論 推敲 2

こんなことを書いているうちに年が明けた…。

年末に気になったニュース。トランプ氏のロシアの賞賛。(諜報活動をしていたロシア人を国外追放したオバマ氏への報復をしなかったこと。)政治家でないだけにいろいろな行動に出るが、これはプロの政治家がやらないことである。しかし冷戦時代には「相手を褒める」というのは最も効果の期待できるストラテジーではないか。

解離性障害の分類

上述の定義にしたがった解離性障害の分類は、DSMにおいてもICDにおいても、以前のものからかなりの変更が加えられている。
まずDSM-5においては以下の文類が見られる。
解離性同一性障害 Dissociative identity disorder
離人感・現実感消失障害 Depersonalization-derealization disorder
他の特定される解離性障害 Oher specified dissociative disorder
特定不能の解離性障害 Unspecified dissocative disorder
解離性健忘 Dissociative amnesia

このうち「他の特定される解離性障害」については以下の「例」が挙げられている。
1.          混合性解離症の慢性および反復性症候群
2.          長期および集中的な威圧的説得による同一性の混乱
3.          ストレスの強い出来事に対する急性解離反応
4.          解離性トランス

他方ではWHOの診断基準であるICDの新版(ICD-11)はその最終的な発表が2018年に計画されているが、その試案として公開されているもの(ベータ試案)には、以下のような項目が挙げられている。


解離性神経症状障害 Dissociative neurological symptom disorder
解離性健忘 Dissociative amnesia
離人-現実感喪失障害 Depersonalization-derealization disorder
トランス障害 Trance disorder
憑依トランス障害 Possession trance disorder
複雑性解離性侵入障害 Complex dissociative intrusion disorder
解離性同一性障害 Dissociative identity disorder
二次的解離性障害 Secondary dissociative syndrome

これらを見比べると、DSMICDはかなり歩み寄ってきているという印象を持つ。両者とも解離性同一性障害、解離性健忘、離人感・現実感消失障害を三つの主要な解離性障害とみなし、これまであった解離性遁走は解離性健忘に吸収された形になっている。また憑依、ないしトランス状態にもその位置を与えられている。これらが両者に共通しているのだ。ただし従来の転換性障害については依然として、DSMでは解離性障害には含まれない一方で、ICD-11ベータ試案ではそれが解離性神経症状障害と呼び名を変えて解離性障害の一つとして位置付けられている。すなわち転換症状を解離に含めるか否かに関する両者の不一致は継続して見られるのである。
また解離性障害は、大分類としてはDSM-5では「7.心的外傷およびストレス因関連障害群、「8.解離症群/解離性障害群」、「9.身体症状症および関連症群」の順で登場し、ICD-11ベータ試案でも同様に「ストレスと特に関連する障害群 disorders specifically associated with stress」「解離性障害群dissociative disorders」「身体苦痛障害 Bodily distress disorder 」の順で掲げられているが、これは解離性障害とストレス関連障害群、身体症状障害との強い関連性を示す意図の表れと考えられよう。

幾つかの代表的な解離性障害

以下に解離性障害の代表的なものについて概説する。DSM-5ICD-11ベータ試案を参照する限り、解離性障害は1980の再登場以来30年以上を経て離人、健忘、DID、トランスの4つに集約されてきたという観がある。それを全体的に概観するならば、まずDIDについては、その病理の成立過程は比較的わかりやすいといえよう。幼少時の深刻なストレスないしトラウマに対して、解離というメカニズムにより処理することを余儀なくされた子供がいくつかの人格を形成していく過程は、家族の観察によっても、患者自身の叙述によっても、比較的明瞭に記載されることが多い。幼児の高い可塑性を持った中枢神経においてのみ精緻化された人格状態が形成されると考えられよう。
他方では解離性トランスや解離性健忘は、ストレスによる新たな人格の形成には至らない、いわばDIDの不全型と見なすこともできるであろう。その際後に解離性健忘を残すような人格状態は、通常はDIDにおける人格ほどには精緻化されていない。また解離性トランスの場合には意識の狭小化が伴い、のちに結果としての解離性健忘を残す可能性が高い。

解離性同一性障害

DSM-5におけるDIDの診断基準のうちA基準はは以下のように示されている。「2つ以上の明確に異なる人格状態の存在により特徴づけられるアイデンティティの破綻であり、それは文化によっては憑依の体験として表現される。」ちなみにこの憑依に関する記述はDSM-IV-TR には存在しなかった。またA基準の文末には「それらの兆候や症状は他者により観察されたり、その人本人により報告されたりすること。」とあり、人格の交代は直接第三者に目撃されなくても、当人の報告で十分である点が示されている。さらにB基準としては「想起不能となることは、日常の出来事、重要な個人情報、そして、または外傷的な出来事であり、通常の物忘れでは説明できないこと。」となっている。(DSM-IV-TRの同ヵ所では「重要な個人情報」とのみ書かれていた。)
以上をまとめると、DSM-5におけるDIDの診断基準の以前からの変更点は、人格の交代とともに、憑依体験もその基準に含むこと、人格の交代は当人の申告でもいいという点を明確にしたこと、健忘のクライテリアを、日常的なことも外傷的なことも含むものとしたこと、の三点となる。
DIDの理解や治療方針について概要を示せば、幼少時の深刻なストレスないしはトラウマを機に発症し、いくつかの人格の素地をすでにその時期に備えているのが通常である。思春期以降実家から離れることをきっかけに人格交代が生じることが多い。人格間の記憶の保持や共有についてはケースバイケースであり、一つの人格が活動している間にほかの複数の人格がそれを眺めているというパターンがむしろ一般的である。
現実のケースでは、沢山の人格部分が形成されることはあっても、それらの多くはやがて休眠する運命にある。またDIDを有するケースの多くは明確にそれと同定されることなく、次第に解離症状が目立たなくなっていく可能性がある。しかし過去にトラウマに直接かかわった人物と遭遇したり、新たなストレスやトラウマを体験した際、あるいは激しい情動体験を持った場合などに、それまで休眠していた人格部分が賦活されて現れる可能性もあろう。したがってDIDの治療はいったん終了となった後も、その時々の症状の再燃に対して適宜介入する必要が生じる場合が多い。

<以下略>