2016年12月8日木曜日

催眠 ④

サブリミナル効果の研究も、暗示の持つ意義の見直しに一役買っていた

ここで私はもう一つお話をしておかなくてはなりません。それはサブリミナル効果というものです。昔映画館でポップコーンの画像を、ほんの一瞬、見ている人は気が付かないほど一瞬見せることで、ポップコーンの売り上げが上がったという話がありました。結局この実験自体は嘘だということがわかったのですが、それ以降様々な実験がなされ、結局サブリミナル効果は存在するということになりました。現在では放送法で、サブリミナル効果を使ったいかなる宣伝も禁止されているそうです。しかしこれは、私がこれまで話していた、人は催眠や暗示にはあまりかからないのだ、という話と矛盾していて、これもいろいろなことを考えさせられます。例えば「敵」という字を気がつかないほど一瞬見せるだけで、その人の行動が敵対的になる。逆に「仲間」という単語を見せると友好的になる、という実験があります。人の心は、ちょうどパチンコ玉が台の釘についていたほんの小さなごみによりその流れを変えてチューリップに入るようなことが起きるというわけです。つまり私たちの言動は、あるいは思考は、実は様々なものにより方向を変えるということです。ですから心をできるだけ安定した状態に保つことで、心というサイコロを自分の望むべき目が出るように仕向けることは決して無駄ではないということです。その意味で私が考えるのは、やはり瞑想の効用ではないかと思います。

現在フランスで起きていること

現在フランスでは、救急隊が医療催眠の基礎訓練を受けているといいます。アルザス地方では、事故にあった人を落ち着かせる試みが取り入れられ、救急隊員が手当てや救出を行う際に催眠的な技法を用いていると報告されています。彼らは犠牲者の手を握ることと同等だ、と考えているようです。アグノー消防隊というところの記事が出ていましたが、100%の患者が手当ての時間を短く感じたといいます。でも彼らは自分たちの用いている手法を純粋な催眠ではなく、「一種の催眠的技法 a kind of hypnotic technique」と呼んでいるとのことです。
フランスとは、さすがメスメルを受け入れた国ですね。このように催眠を用いる試みは多くおこなわれています。日本でも広く知られているラマーズ法は、まさに催眠出産法の代表格と言えるものですが、フランスのフェルナン・ラマーズ医師が、20世紀半ばに開発したもので、恐怖や不安、思い込みをなくし、暗示と呼吸法によってリラックス状態を作り出すことが基本です。私がテレビで見た報道では、フランスの麻酔科医が催眠を用いることにより、薬物の必要量をかなり削減できたというもので、こうなるといよいよ信ぴょう性が出て来るわけです。
さてこれまでは心が体を変えるということをお話ししましたが、実はEMDRなどの例でわかるとおり、それは心が心を変える、という作用だということがわかります。催眠や自己暗示の一つの効用は、心により心の在り方を変えることだと思います。しかも基本的には自分で、です。催眠において術者により語られることは、結局は自分で自分に語ってもいいことなのです。そう、最終目的は自己暗示なのです。しかし自己暗示というとそれでも何か刹那的で自己愛的なニュアンスがあります。それを私が言い直すと、それは瞑想であり、その中でも慈悲の瞑想といわれるものです。