2016年11月1日火曜日

退行 推敲 ②


「精神分析的設定内での退行のメタサイコロジカルで臨床的な側面(1954)」(北山修(監訳)小児医学から精神分析へ-ウィニコット臨床論文集-” 岩崎学術出版社 pp335-357)には、ウィニコットの退行理論の言わばエッセンスが書かれている。その中でウィニコットは症例を3つのグループに分けている。第1は、フロイトが治療したような神経症グループ、第2のグループは、人格の統合性がようやく成立した段階の人たちである。そして第3のグループ、すなわち「単一体としての人格が確立される以前ないしそこに至るまでの情緒発達の初期段階を、つまり時空間の統一状態が達成される以前のものを分析が扱わなくてはならないようなすべての患者たち」に当てはまるという。そしてこれらの症例については「通常の分析作業を中断し、取り扱い management がそのすべてとならざるを得ない」(p336)とする。そして退行を十分に促すことが治療に必要とされる。また退行が生じるためには、偽りの自己を生じるような環境の側の適応の失敗があり、退行のための潜在的な能力を持つとする。
 ウィニコットの退行理論の特徴は、患者が退行できることを一つの能力として捉えている点だ。そしてそれは「初期の失敗の修正の可能性を信じること」であることと言い表される。
ウィニコットはさらに二種の退行、ということも言っている。ひとつは環境の失敗状況への退行であり、その際は個人的な防衛がそこで行われたことを意味し、分析の対象になる。しかしより正常な、早期の成功した状況の場合は、個人が後の段階で困難が生じたときに、よい前性器期の状況に戻る。そこでは個人の防衛の組織ではなく、依存の記憶、環境の状況に出会うのだという(P341そしてこんなことも言う。フロイトの症例はすべて、乳児期の最早期に適切に介護された症例なのだ。そこで「依存への退行」を起こすのが分析作業ということになるが、そこで備わるべき条件は以下の通りである。
1.信頼をもたらす設定の提供。
2.患者の依存への退行。
3.患者は新しい自己感覚を持つ。
4.環境の失敗状況の解凍。
5.想起の環境の失敗に関連した怒り。それが現在において感じられ、表現される。
6.退行から依存に回帰し、自立に向かって順序正しく前進する。
7.本能的なニーズや願望が、正真正銘の生気と活力を持って実現可能になる。これが何度も繰り返される。
この解凍ということについては少し説明がいる。ある特定の環境の失敗に対して、個人がその失敗状況を凍結することによって自己を防衛することができるのは、正常で健康なことであるという。改められた体験の機会が後日生じるだろう、という無意識的過程がそのことには伴っているという。
この凍結、および解凍という言葉の使い方、実は解離屋にとってはとても意味シンに聞こえることは言うまでもない。