2016年6月30日木曜日

報酬の坂道 ⑩

遂行システムにおける「慣性の法則」

遂行システムにおいては、一つの始まった行為は(ほかのどのような行為にも優先して)完結するという原則が存在することは間違いなさそうである。ある本を読みだす、ある行為を始める、するとそれが止まらない、という現象がある。なぜだろうか。なぜ推敲システムは、それを首尾よく終わらせることに貢献してくれるのだろうか?答えはネットワークの励起にある。そもそもネットワークは、それ全体が励起するためにエネルギーを要する。
私は最近浦沢直樹の漫画「Monster」を読む機会があるが、明らかに読んでいると次も読みたくなる。(全部で18巻ある。今9巻目の初めの部分を読んでいる)。これは例えばしばらくぶりに読み直そうとして、9巻目の35ページから読み直そうとすることとは異なる。なぜだろうか?それは読むことで物語全体の登場人物やストーリーの流れのネットワークが興奮して、その全体が新たなストーリーの展開を次々と欲するからである。「慣性」が生まれているのだ。しかししばらくぶりに読み直し、全体の流れを忘れかけていて、ネットワークの一部しか興奮していないと、そのストーリー展開により得られる興奮を一部しか感じられない。同様の現象は、音楽を聴いていても、絵画を見ていても、すべて起きることだ。これはネットワークの興奮という初期投資を行うことで初めて可能なのである。そしてこの事情が遂行システムの機能に深く関係しているのである。