2016年5月4日水曜日

嘘 2 ⑩

自己欺瞞の例 ⑩
だめだ。まだ母親の自己欺瞞のエッセンスを抽出できない。そこで次の例に移る。ある会社の部署で、ワンマン社長の肝いりで企画を立ち上げることになった。その部署ではリーダー格のAさんが、まだ年若い部下のBさんに言う。「君がこの企画のプロジェクトの実質的なリーダーになってやってごらん。君は将来有望だし、これをいい機会にして、リーダーシップを発揮してみてはどうだい?困ったことがあったら僕が助け舟を出すから、大船に乗ったつもりでね。」Bはそう言われてまんざら悪い気はしない。Aさんのことは前から頼りがいのある上司だと思っていた。そこで早速ほかの部下を集めてプロジェクトを立ち上げる。
 しかしそれがある程度進んだところで、一つ問題が生じた。社長の指令で始まったこの企画がある程度進行した時点で、途中経過を社長に伝えたところ、思わぬダメ出しが出た。その進行中の企画の一部が、社長の意に沿わないという。しかしそれは最初の社長の指令(といっても簡単なものだったが)から読み取れる方針に従ったのであり、むしろ社長に彼の伝えてくる方針の矛盾点を問いただす性質のものだ、ということになった。そこでBさんはAさんに相談する。「Aさん、この件について、社長に問い合わせていただけませんか?プロジェクトはある程度進行しています。社長の真意を確かめたいのですが、私には畏れ多いのです。直接連絡をできる立場にありません。」ところがそれを聞いたAはこう言い放ったのである。
「B君。あくまでも君のプロジェクトだよ。キミ自身が社長に連絡をしたまえ。」B君ははしごを外された感じがする。「いざとなったら助け舟を出してくれる、と言ったのに。」そのうちこんなうわさが聞こえてくる。「Aさんはもともと社長が苦手で、だからBさんを鍛える、などと言いながら、直接社長と対決することを避けたらしい。いかにもAさんのやりそうなことだ…」そしてこれが事態の一側面を確かに表していると仮定しよう。

ここでのAさんの自己欺瞞は、自分はBさんを鍛えるということを口実に、社長との直接対決を避けていて、そのこと自体を「見てみない」ということにある。