自己愛トラウマは怒りで処理されるークリントン氏の例
アメリカの第42代大統領ビル・クリントンは、私にとって気になる人だった。それは彼の8年間の任期(1992年~2000年)が私が米国に滞在中の期間にかぶっていたから、ということもある。というのは彼がこうむったスキャンダルは、あの頃毎日アメリカのメディアを賑わし、それを毎日聞かされているうちにクリントン氏が体験したであろう恥を想像し、同情しながら過ごした時期が長かったからだ。つまり他人ごとではなくなってしまったのである。そして彼のことを私がこの本に書くのはもちろん・・・・彼が比較的典型的なナルシシストだからだ。
クリントンはチャーマーであり、かつきわめて頭脳明晰である。IQ 137と言うのだから大統領としては普通かもしれないが、結構なものだ。聴衆の心をつかみ、魅了する技に長けている。どこで何を強調し、どのような抑揚で話すか、そのことをよく自覚しており、利用しようともする。またいわゆるwomanizer
であることは周囲も一様に指摘している。つまり相手の女性に付け入って利用し、自分の自己愛を満たそうとすることがある。発言にウソが多く、それが彼が偽証罪に問われるきっかけにもなった。Clinton and Lewinsky on a 1998 Abkhazia stamp |
確かに当時49歳の彼が任期中に当時22歳の実習生モニカ・ルインスキーと不倫関係に陥り、あろうことかオーバルオフィスで関係を持ったことは恥ずべきであろう。しかしそれはこんなことをいっては問題かもしれないが、彼の男性としての魅力を表しているといえないこともない。やはり不味いか。
しかし彼のスキャンダルやそれによる彼の恥の体験は計り知れない。彼は一生、どこで誰にあってもあの「青いドレス」の問題と結びつけられる。彼がいかに優秀な大統領として8年間アメリカの政界に君臨したとしても、彼を見て最初に浮かぶのはあのスキャンダルなのだ。何という不名誉。誰がそんなことに耐えられるだろうか? おそらく彼くらいのものかもしれない。そして彼が自殺することもなく、今度は奥さんの大統領選に精力的に、あるいは過剰な援護射撃をしつつ助けて飛び回っているということは、彼は相当の「厚皮」だということになるだろう。
大統領としての彼は、癇癪持ちでも有名であったという。Frontline と言うサイトに、クリントン大統領の時代の出来事が書いてる。http://www.pbs.org/wgbh/pages/frontline/shows/clinton/interviews/myers2.html
それによれば彼は毎朝スタッフに当たり散らすというのが普通になっており、それはSMO,
the standard morning outburst.(通常の朝の癇癪)と呼ばれていたそうだ。例のジョージ・ステファノポラス青年などは、真っ先い怒られる役だったらしい。ちなみにこの癇癪は、ヒラリーさんの選挙活動にとっても一つのネックにさえなっているという。ヒラリー陣営が批判にさらされると、夫のビルは癇癪を起してしまい、それが却ってヒラリー陣営の印象を悪くしているというのだ。
ちなみにクリントン氏が最も落ち込んでいる時期であったと言われる1998年、つまり彼の不倫スキャンダルがピークを迎えたころも、一方での彼の怒りは相当のものであったという。もともとは関係ない問題から始まっていたケネス・スター特別検察官による捜査で、どうして関係ないはずのルインスキー嬢との関係について証言されられることになってしまったかについて怒り心頭であったと言われる。
しかしそのような中で大統領としての仕事は極めて有能に淡々とこなし、あたかもスキャンダルなど起きていないかの印象を周囲に与えた。これもまた彼の「厚皮」に関係していたのかもしれない。