2014年8月31日日曜日

解離と脳科学(推敲)(6)

ショアの説く自己の理論
最後に同論文でショアがとく自己 self の理論が興味深いので、ここで付け加えておきたい。彼の説は、脳の発達とは自己の発達であり、それはもうひとつの自己(典型的な場合は母親のそれ)との交流により成立する、と主張する。そしてその中でも最初に発達を開始する右脳の機能が大きく関与している。
ショアは、自己の表象は、左脳と右脳の両方に別々に存在するという考えがコンセンサスを得つつあるという。前者には言語的な自己表象が、後者には情緒的な自己表象が関係しているというわけだ。この右脳の自己表象とは、フロイトの無意識や、非明示的な情報処理とも関係しているということだ。さてこのままだと右脳の自己というのはなにやら抽象的でつかみどころのないものなのだが、一説によると右脳の非言語的な自己を支えているのが、情緒的に際立った体験と記憶であるというHappaney, et al 2004Happaney, K., Zelazo, P.D., & Stuss, D.T. (2004). Development of orbitofrontal function: Current themes and future directions. Brain and Cognition, 55, 1-10.)つまり具体的な体験や記憶がその右脳の自己のネットワークを紡いでいるということだ。そしてそれは身体的な自己の形成をもつかさどる。右の前島 anterior insula 右の眼窩前頭皮質は共同で意識化できるような内臓レベルでの反応を形成するという。それが自己の主観的な感情レベルの形成に貢献するというCritchley,et al .2004Critchley, H. D., Wiens, S., Rothstein, P., Ohman, A., & Dolan, R . J. (2004). Neural systems supporting interoceptive awareness. Nature Neuroscience, 7, 189-195.)。自己、といってもその具体的な内容は、神経ネットワークであり、それは記憶により成立しているものだ。そしてそれを妨害し、そのネットワークの成立を根底から揺るがすのがトラウマ体験であるという。右脳の刺激によりさまざまな離人体験が引き起こされるというBlanke 2002)らの研究もそれに関係しているということになる。Blanke, O, Ortigue, S., Landis, T., & Seeck, M . (2002).

Stimu lating i l lusory own-body perceptions. Nature, 419, 269-270.