第一次試験はアメリカ全土で一斉に行われる。問題作成の手間などを考えると年に何度も行われることはない。それは米国精神神経学資格協会から、一方的に割り当てられ、その年の受験を逃すと、丸々一年待たなければならなかった。私は時々書類に書き入れなくてはならない自分の資格として早く「BC」(Board Certified 専門医資格認定を受けた)と書けるようになりたかった。いつまでも「BE」(Board Eligible 専門医資格試験を受ける候補の、もう少しわかりやすく言えば、資格未認定の)と書かなければならないのは耐え難かったのである。しかしこのままだと無駄に一年待つことになる。
ところで記試験はアメリカ全土で一斉に行われるので、その場所を各自が選ぶことが出来た。もちろんどこで受けても結局は同じだ。私の地元近くのカンサスシティで受けるよりもカリフォルニアなどの東海岸で受ける方が2時間ほど早く受けられるが、そのぐらいでは全く意味がない。せめて一日予定が早かったら・・・・。ため息をつきながら会場のリストを見ていると、・・・・あったのである。ハイデルベルグ。実はドイツのハイデルベルグの米軍基地内で、ドイツで働く米国籍の精神科医のためにも、米国の国外で唯一、この筆記試験が受けられることが分かったのだ。そしてその時間帯を見ると…。ちょうど米国内での実施の半日前。つまり先に日付が改まるハイデルベルグの方が12時間ほど前に事件が行われる。これは時間が稼げる。ということは、地元のカンザス空港からシカゴに、シカゴからドイツのフランクフルトに、フランクフルトから電車でハイデルベルグに、そこで試験を受けてフランクフルトに戻り、そこから成田への直行便に乗るという方法をとると、ギリギリで東京での学会に滑り込むことが出来ることが分かったのだ!(実はこの試験はおかしい。だって半日前にハイデルベルグで試験を受けて問題を知った受験生が、本国にその内容を伝えるということで一種のカンニングが出来てしまうことにもなろう。でもそこらへんは割といい加減なわけだ。) そんな飛行機の乗り継ぎが出来るのかと、シカゴのいつもの旅行会社に問い合わせたが、奇跡的にそれが可能なルートがあったのだ!!
とまあ私のハイデルベルグ行が突然決まったわけだが、ことはこのままスムーズに済まなかった。(つづく) やはり書いているうちにどうでもよくなってきた。
これまでの記述から、解離と愛着の問題の概要がご理解いただけたと思う。解離において生じていることは、愛着の障害の一環として理解できる。それは生理学的に言えば、交感神経の過活動の次に起きてくるフェーズである、副交感神経の過覚醒状態ということが出来る。
ところで愛着や解離の理論において、特にショアが強調するのが、右脳の機能の優位性である。そもそも愛着とは、母親と子供の右脳の同調により深まっていく。親は視線を通して、その声のトーンを通して、そして体の接触を通して子どもと様々な情報を交換している。子供の感情や自律神経の状態は安定した母親のそれによって調節されていくのだ。この時期は子供の中枢神経や自律神経が急速に育ち、成熟に向かっていく。それらの成熟とともに、子供は自分自身で感情や自律神経を調整するすべを学ぶ。究極的にはそれが当人の持つレジリエンスとなっていくのだ。
ところで愛着や解離の理論において、特にショアが強調するのが、右脳の機能の優位性である。そもそも愛着とは、母親と子供の右脳の同調により深まっていく。親は視線を通して、その声のトーンを通して、そして体の接触を通して子どもと様々な情報を交換している。子供の感情や自律神経の状態は安定した母親のそれによって調節されていくのだ。この時期は子供の中枢神経や自律神経が急速に育ち、成熟に向かっていく。それらの成熟とともに、子供は自分自身で感情や自律神経を調整するすべを学ぶ。究極的にはそれが当人の持つレジリエンスとなっていくのだ。
逆に愛着の失敗やトラウマ等で同調不全が生じた場合は、それが解離の病理にもつながっていく。つまりトラウマや解離反応において生じているのは、一種の右脳の機能不全というわけである。ショアがこれを強調するのには、それなりの根拠がある。というのも人間の発達段階において、特に最初の一年でまず機能を発揮し始めるのは右脳だからだ。そのとき左脳はまだ成熟を始めていない。するとたとえば生後二か月になり、後頭葉の皮質のシナプス形成が始まると、その情報は主として右脳に流れ、右脳が興奮を示す。(Tzourio-Mazoyer, 2002) (Tzourio-Mazoyer,N.,DeSchonen,S.,Crivello,F.,Reutter,B.,Aujard,Y.
& Mazoyer,B . (2002). Neural correlates of woman face processing by2-month-old
infants.Neuroimage, 15,454-46l.)
子供がより成長し、左右の海馬の機能などが備わり、時系列的な記憶が備わり始めるのは、4,5歳になってからだ。しかしではそれ以前に生じたトラウマは意味を持たないのかといえば、そうではない。赤ん坊は何も記憶ができない状態でも、すでに生理学的な存在として、その脳はさまざまなストレスに対する対応のパターンを形成していく。そしてそれが主として右脳を主座とて生じる。そこで誤ったパターンが形成された場合は、その後の人生でその影響をこうむることになる。
では右脳の機能がきちんと発達し、備わっていくことを示すのは何か。それが愛着なのである。愛着がきちんと成立することは、右脳が正常な機能を獲得したということを意味する。