2014年7月4日金曜日

トラウマ記憶と解離の治療(推敲)4

ところでこのミサニン先生の実験、後に更にソフィスティケートされた形で2000年にナダー先生とそのグループによりなされ、それがかなり決定的な力を持っていたという。(
Nader,K, Schafe GE, LeDoux, JE. Fear memories require protein synthesis in the amygdale for reconsolidation after retrieva. Nature 2000; 406:702) [Pubmed: 10963696]  この先生のグループの研究には、ル・ドゥー先生の名前もあり、やはり先生の指導のリーダーシップのもとで行なわれていることがわかる。この研究では、同じくラットを用いて、音を鳴らした後に足にショックを与えるというところまでは同じだが、今度はその後に電気ショックを与える代わりに、脳の扁桃核にアニソマイシンを注射したという。すると音を鳴らしてもそのマウスは何も反応を示さなくなった。ということはアニソマイシンにより一度形成された学習が消去されてしまったということになる。またこの学習が残っているかどうかについては、ボトルを舐めるという行動の変化から、体の動きを止める(フリージング)の長さという形に改められたという。これっていわば解離反応の長さという風にも考えられるな。
このナダー先生たちの研究が優れている点は二つあった。一つは電気ショックの代わりに蛋白質合成阻害剤のアニソマイシンを用いることで、学習の際のシナプスが形成されることを疎外したという過程がより明確になったということ、(ちょっと説明が必要かもしれない。長期記憶が成立する、ということはシナプス間のつながりが成立するということで、それは究極的にはそこでの蛋白合成が行なわれるということである。シナプスの素材はたんぱく質だからだ。)そして何よりもそれを注入した場所、すなわち扁桃核が特定できたということである。
しかしこの辺の研究、相当やられているようだ。固定と再固定では、一体何処に違いがあるのだろうか、どのような物質が用いられる(逆に用いられない)ことがその違いを生んでいるのか、ということについて、多くの研究があるものの、はっきりしない。コンピューターのアナロジーが好きな人はこう考えるといい。文書を作り最初に登録する。次にそれを引き出してすこし手直しをして、更新して登録する。一体コンピューターの中ではどのようなことが起きていて、初期の登録と更新にはどのような違いがあるのだろう?そんな話だ。