2014年3月27日木曜日

続・解離の治療論(13)


ケース2

40代後半の女性。数年前に結婚してから、最近になり夫の前でしばしば子供の人格が出るようになった。そしてスヌーピーのぬいぐるみを買って欲しいとせがむ。彼女は子供時代に両親にそれをねだっていたが、決して買ってもらえなかったという。夫はそのようなことをしてしまうと子供が出っぱなしになるのではないかと心配して実際に買うことはなかった。患者が私(岡野)のもとを夫を伴って受診し、「別にスヌーピーを買ってあげてもいいのではないか」というアドバイスを受ける。治療者とのカウンセリングはプレイルームで行い、卓球台やバランスボールで遊ぶことが多く、大人に戻った人格はしばしば筋肉痛を訴えた。それから数ヶ月間家でもカウンセリングでも子供の人格が出ることが多かったが、徐々にその頻度が減り、通常の社会生活を送れるようになりつつあるが、夫に買ってもらったスヌーピーのぬいぐるみは大切にしている。


子供人格の成長ということ


 子供の人格と出会うことのひとつの目標が、その子供人格の成長であるという主張は、誤解を招くかもしれない。子供人格は文字通り「成長する」というわけでもないであろうし、何しろ実際に存在する子供でもないのだ。またメタファーとしての「成長」に限って考えたとしても、それを期待できない子供人格もいる。周囲は成長するより先に「寝て」もらいたいと願うような子供人格もいるだろう。それでも当面の治療目標としていえるのは、子供の人格が出現している限りは、それがより自律的になり、節度を持つという意味での成長を果たすということである。その過程でAちゃんが治療者やBさんと話し合うことで、Aちゃんの心境に変化が生じ、「Aさんが仕事をしているときは、あまり邪魔してはいけないんだ、その代わりカウンセリングの時は出てきていいんだ」などと我慢をしなくてはならないんだ」と考えるようになることを期待するわけである。
 
ただしここにも悩ましい問題がある。Aちゃんは必ずしも主人格Aさんのために自分を律するべきだと考える保障はないのだ。むしろAちゃんはAさんのために犠牲になるようなことは全く望まない可能性すらある。私の経験では子供の人格の多くは主人格の「お姉さん」に対して一定の敬意を払う傾向にあるが、例外も多々あるようである。