2014年3月24日月曜日

続・解離の治療論(10)


子供人格の「出癖(でぐせ)」ないしは定着について


 子供の人格の出現は治療的なのか、あるいはそうではないのか?子供の人格が出る癖(「出癖」)を容認するべきなのだろうか?
この問題は解離性障害の治療の要になるといっていい。この答えは一通りではないが、少なくとも臨床家や家族のあいだには、それを必要以上に恐るという風潮があるということは事実ではないかと思う。そのことは本章の冒頭で述べた通りである。
子供人格が出現するという現象は、臨床場面以外でも頻繁に生じる。おそらく多くのDIDを持つ方が、臨床家のもとにたどり着く前にそれを体験する。例えば次のような状況を想定することができるだろう。
あるDIDを持つ女性の患者Aさんがいる。彼女はBという、十分に優しいパートナーに出会う。AさんとBさんは頻繁に出会い、場合によっては同居するようになる。そしてその前で子供人格Aちゃんが出現するようになったとする。Bさんは最初は驚くが、比較的よく状況を理解するようになり、AちゃんをAさんとは別の人格として優しく扱うようになる。AちゃんはそんなBさんとも仲良くなり、しばしば出て来て、遊びを請うようになる。それが頻繁になり、ひとつのパターンになったとしたら、子供の人格の出現が「定着」した状態と考えていいだろう。
ここでBさんは次のような問題に遭遇するかもしれない。彼が惹かれて付き合うようになったのはAさんである。とすると少なくともBさんにとっては恋人と会う時間はそれだけ短くなる。彼はそれを不都合と感じるかもしれない。あるいはある程度Aちゃんと遊ぶのはいいとしても、それがどんどん長時間に及ぶとしたら、そのことに徐々に不安を覚えるかもしれないであろう。そこでBさんがとる行動はいくつかありうる。ひとつはBさんがAさんについて専門家に相談をしたり、Aさんの受診を勧めたりすることである。もう一つはAちゃんの相手をしないようにし、できるだけAさんと話すように試みることである。さらにもうひとつの可能性としては、BさんはAさんとの関係そのものを終わらせてしまう場合だ。臨床ではこれらのケース全てに出会うことになる。
 これらの疑問の全ては定着した子供人格は、その後ますます出るようになるか、それとも最終的には出なくなっていくのか、ということにかかってくる。
そこでまず大雑把な答えを出すならば、「子供の人格はしばらく定着する可能性があるが、多くはやがて眠りに入る運命にあり、それにより社会適応がより難しくなる、ということは通常は生じない」ということだ。これは多くのDIDの患者さんたちと接した経験から私が言えることである。