2014年2月3日月曜日

職場におけるいわゆる「新型うつ病」について(6)


「現代型うつ病」は「怠け」や「甘え」ではない、実際の精神的な病である
(ただし一種の恐怖症 phobia (ないしは不安障害)である可能性がある。)
  上述の①~④のうちの④番目に関係する問題が、この小論の一つの結論のようなものである。新型うつ病もれっきとした病気である。でも少しうつ病とは異質のものだ。しかし私はそれを怠け病とか擬態うつ病といった、どちらかといえばネガティブなニュアンスのこもった呼称を用いて呼ぶことには抵抗がある。というよりはうつ病とは異なるものとして考えるべきだと思う。それはむしろ神経症的な反応、一種の恐怖症のようなものと考えている。それが職場でのトラウマを伴う場合には、一種のPTSDの色彩を伴いかねない。私がそのように述べる根拠を少し示したい。
まずはある架空の症例からである。
初診時29歳の会社員の女性Aさん、独紳。製造業の事務。独身。XY月受診。
主訴)不眠、動悸、集中困難。「上司とうまくいかなかったが、深刻なパワハラを受け、体調を崩した。」
現病歴)X4月から40歳代の女性の上司との葛藤が始まり、いじめに近い叱責、長時間の詰問が始まる。少しの仕事のミスから会議室に呼ばれ、昼休みも取れないほど長時間の叱責を受けた。それと同時に体調不良が始まり、内科を受診し、そこから精神科を紹介された。
生育歴)一人っ子、会社員の父親は厳格で、Aさんは常に顔色をうかがっていた。中学時代に一年間不登校があり、精神科受診もあった(詳細不明)。高校時代も不登校気味で、大卒後は23歳で現在の会社に入社した。
現症)うつろな目、過度なイライラ感、精神運動遅滞が著しい。自殺願望とともに、上司を殺したい気持ちを語る。
診断)うつ病、PTSD。主治医が「Aさんへのパワハラが病状につながり、長期の自宅療養が必要である」という診断書を書き、抗鬱剤と抗不安薬の処方を開始する。
最初の半年間は抑うつ気分が強く、またパワハラのことを思い出すとフラッシュバック様の発作が頻発した。夜間にうなされる、外出しても人ごみがストレスとなり、すぐに帰宅してしまうということが続いた。X1年3月、Aさんは自分に起きたことについての詳しい記載を行う。そして会社側にそれを提出する。それによりフラッシュバックが生じることもあったが、気持ちの整理が少しずつつくようになる。パワハラのもととなった職場の上司に直接対面して謝罪を受けるという機会も設けられた。
X19月、編み物教室に通うようになってから状態がかなり安定する。しかし地下鉄の駅で突然過呼吸発作を起こすという傾向は変らず。ただしフラッシュバック自体は減ってきた。そこで職場への模擬通勤を課題として課すが、元の職場に近づくだけでパニック気味になるということが起きる。それ以外の生活場面に関しては特に問題がなくても、元の職場に対しては強い拒否反応を示すことが明らかになった。
X33月、休職開始後3年以上経過して、ようやく職場の復帰が産業医との間で決まる。その際主治医はAさんの復帰先の部署の変更が必要であるということを診断書を通じて会社側に伝え、それが認められる。
X34月、職場復帰となる。仕事場は人事課における雑務であり、比較的閑職であったが、上司は理解があり、ストレスは少ない。Aさんは最初は疲れやすく、休みがちとなり本調子とはいえなかったが、徐々に調子を取り戻し、現在抗うつ剤、抗不安薬を服薬しつつ仕事への復帰を達成している。

このAさんの経過を見る限り、彼女に起きていたことは二つあると考えられる。ひとつはストレスからくる抑うつ的な反応。もう一つは職場に対する恐怖症である。そして特に後者は大きな意味を持つ。なぜなら、Aさんの症状はフォビア(恐怖症)であるがゆえにうつ病に当てはまらないような症状を多く示しているからだ。