2013年9月7日土曜日

トラウマ記憶の科学(4)

ここでとっても重要なことを述べさせてほしい。といっても用語や概念の問題だ。
最近脳科学界をにぎわせているのが、reconsolidation 再固定化という概念だ。(Solid は固体、con-solidate は固化する、固定する。するとreconsolidate 再固定ということになる。)要するにいったん固定されたはずの記憶が、書き直されてまた固定されるという現象だ。すべての治療は、この再固定化を目標とするといっていい。
 さて再固定化が起きるためには、一度記憶が溶けて「ブヨブヨ」に、つまり可塑的にならなくてはならない。さっきのレコード盤の比喩で言えば、レコード盤の表面のプラスティックが溶けなくてはならない。それを記憶の不安定化destabilization と呼ぶ。再固定化が起きるためにはまずブヨブヨだ。これを起こすにはどうしたらいいのか? 
 最初科学者は無知でこんなことを考えていた。「要するに、思い出しゃいいんじゃないの?思い出すということは、固体をいったん溶かすことになるんやないの?」ちなみに思い出すことにも用語がつけてある。それが再活性化reactivationというそうだ。そう、レコード盤の上を針がなぞることね。それだけでブヨブヨが生じるのかと思ったという。でもそれだけではいけないことが分かった。何かが同時に起きなくてはならない。レコード盤の針が表面の凹凸を拾っているときに、何かが加わるとプラスチックが柔らかくなる。・・・・・・ それが「ミスマッチ」だという。思い出すと同時に何か過去とマッチしないことが起きなくてはならない。わかりやすく書こう。
再固定化=再活性化+ミスマッチ

レコード盤の比喩で言うと、記憶の書き直しが起きるためには、まずその記憶を思い出させて、その時にある種の介入をしなくてはならない。