2013年8月27日火曜日

解離の初回面接(7)

昨日は午後みなとみらいに、心理臨床学会のあるセッションの指定討論者として出向いた。脇谷順子先生はタビストック方式の親子同室カウンセリングの症例、川畑直人先生はエナクトメントのご発表。両者ともにとてもためになった。


精神症状検査
初回面接が終了する前にぜひ施行しなくてはならないのが、いわゆる精神症状検査である。精神症状検査とは面接者が約5分ほどで、患者さんの見当識、知覚、言語、感情、思考、身体症状等について短い質問を重ねた上で、その精神の働きやその異常についてまとめあげる検査である。ただしこれまでの面接の中ですでに確かめられた項目については、繰り返す必要がない。 たとえば知覚の異常として幻聴体験についてすでに質問を行った場合には改めてたずねる必要はない。その意味ではこの精神症状検査は初回面接が終わる前のチェックリストというニュアンスがある。
 解離性障害の疑いのある患者さんに対するこの検査では、特に知覚や見当識の領域、たとえば幻聴、幻視の性質、記憶喪失の有無、等が重要となる。
診断および鑑別診断
解離性障害にはいくつかの種類があるが、内部にいくつかの人格の存在がうかがわれる際にも、それらの明確なアイデンティティ(性別、年齢、記憶、性格傾向)が確認できない段階では、ほかに分類されない解離性障害DDNOSとしておくことが無難であろう。また解離性の健忘や遁走を主たる症状とする人についても、その背後にDIDが存在する可能性を念頭に置きつつも、初診段階で聴取できた診断名に従うべきであろう。

なお解離性障害の併存症や鑑別診断として問題になる傾向にあるのは以下の精神科疾患である。統合失調症、BPD(境界パーソナリティ障害)、躁うつ病、うつ病、てんかん、詐病、虚偽性障害など。これらの診断は必ずしも初診面接で付かなくとも、念頭に置いたうえで後の治療プロセスの中で再び浮上してくる可能性もある。
 なお精神症状検査には、実際に人格の交代の様子を見せてもらうことも含まれるだろう。ただしそこには決して強制力が働いてはならない。むろん解離性の人格交代は基本的には必要な時以外はその誘導を控えるべきであるということが原則である。しかしまたそれは人格交代が出現しかけている際にそれをことさら抑制することとは異なる。また初回面接で解離性の症状を聞く際に、実際の人格の交代の様子を知ることは診断上の意味があるため、その誘導を試みることはある程度正当化されるであろう。
 私は通常次のような言い方をして、いちおうは交代人格とのコンタクトを行う。「今日Aさんとここまでお話ししましたが、Aさんについてよく知っていているお世話役の人がいらしたら、もう少し教えて頂けますか?できるだけAさんのご様子を知っておく必要があります。」その上でAさんに閉眼をして軽いリラクセーションを誘導し、「しばらくお世話役の方からのコンタクトを待ってみてください。」そこであまり時間を取らずに、23分で特に別人格からのコンタクトがなければ、「今日はとくにどなたからも接触がありませんでしたね。結構です。」といってセッションを終える。もしお世話役の人格からのコンタクトがあれば、丁寧に自己紹介をし、治療関係の構築に努めるわけである。