DSM-5における解離性障害の位置づけが本章のテーマである。
1980年のDSM-IIIにおいて解離性障害はヒステリーの呼び名を離れて新たに認知されることとなった。しかしそれから30年以上を経ても、臨床家によってさえも十分に理解され受け入れられずにいるという印象を受ける。それはわが国だけでなく、欧米でもその事情は一緒である(Spiegel, 2010)。
解離性障害の位置づけや分類を考える上で大きな問題となるのが、それとトラウマの関連である。従来のDSMには記述的で、疫学的な原因を論じないという原則があったため、解離性障害とトラウマとの関係については、従来のDSMでは明確にはなされていなかったという問題がある。しかしDSM-5の作成段階 においては、「トラウマとストレッサー関連障害Trauma- and
Stressor-Related Disorders」という大きなくくりを作り、そこに心的外傷後ストレス障害(以下PTSD)、 急性ストレス障害(以下ASD),適応障害だけでなく解離性障害を含むことが考慮されていた(Spiegel, 2010)。最終的にはこれはトラウマ関連障害の中には組み込まれず、解離性障害として独立して論じられることになった。ただしそれは「トラウマとストレッサー関連障害」の直後に配置され、その概念的な近さがそれにより表現される形となっている。
Spiegel, D: Editorial:
Dissociation in the DSM-5 Journal of Trauma and Dissociation 11-261-265, 2010
ちなみに「トラウマとストレッサー関連障害」については、おそらくこのカテゴリー自体が、本来のDSMの、記述的で無病因論的な精神からの方向転換を意味しているといえるであろう。ではどうして解離性障害が「トラウマとストレッサー関連障害」にはいらなかったかについては、やはり解離性障害の診断基準のどこにも、トラウマの既往やそれと発症との因果関係がうたわれていないという点が大きく関連していたといえる。ただしこの問題は、最終的にはDSM-5の「トラウマとストレッサー関連障害」にPTSDの「解離タイプ」を組み込むという方針により、一種の妥協策が取られたという見方もできよう。
ここでDSM-5で解離性障害についてどのような診断基準上の変化があったかについてその大枠を示すならば、大体以下のようにまとめることが出来る。
(1)いわゆる「非現実体験」が離人体験からわけられず、すなわちこれまでの「離人性障害 depersonalization disorder」の代わりに、「離人・現実感喪失障害depersonalization/derealization disorder」としてまとまった。
(2)「解離性遁走 dissociative
fugue」が、これまでのような独立した診断ではなく、「解離性健忘 dissociative amnesia」の下位分類として位置付けられた。
(3)「解離性同一性障害」の診断基準が少し変更になった。特に人格の交代のみならず、人格の憑依 possession もそこに記載されることになった。また人格の交代が、「自分自身により、または他人の観察により報告されること」、となった。さらに記憶のギャップは、単に外傷的なことだけでなく、日常的なことにも起きることを認めた。
以上はいずれもあまり本質部分にかかわった変更とは言えず、余り従来と変わらない、ということは言えるであろう。ただしここに解離性障害のセクション以外での変化も付け加えられるべきであろう。それが
(4)PTSDの下位分類として挙げられたPTSD解離タイプの存在である。
(4)PTSDの下位分類として挙げられたPTSD解離タイプの存在である。
以下にこれらの点について簡単に概説する。