ところでサイコパスに興味を持つ人にとって必読の書がある。それがロバート・ヘアという心理学博士の「診断名サイコパス―身近にひそむ異常人格者たち」という本でわが国でも翻訳が出ている。(「診断名サイコパス―身近にひそむ異常人格者たち」 (ハヤカワ文庫NF) ロバート・D. ヘア
Robert D. Hare 早川書房 2000-08)ヘアはこの世界の大家で、彼の著作はサイコパスという概念が一般に知られることに大きな貢献をしたが、若干それが行き過ぎだったという批判もあるという。それは、サイコパスが私たちの生活で出会う人の中に数多く存在するという印象を与えすぎたというわけだ。
彼はあるインタビューで答えている。http://healthland.time.com/2011/06/03/mind-reading-when-you-go-hunting-for-psychopaths-they-turn-up-everywhere/ それによれば、サイコパスは一般人の100人に一人だが、ビジネスリーダーたちに限ってみると、四倍に跳ね上がるという。確かに彼らは有能であればあるほど、一定の能力にたけていることになるのかもしれない。それは利益を追求し、必要とあれば一気に何千人もの従業員を解雇して路頭に迷わせることが出来る能力である。事実サイコパステストには、ビジネスに関しては「正解」なものも多いという。いわば資本主義ではサイコパス的にふるまえばふるまうほど利益があげられるということらしい。これについてはたとえば日本でのオレオレ詐欺の現状を考えてみよう。あれほど巧妙にやればやるほどもうかる商売はないと言える。
これについては、最近興味深いニュースが伝えられたことをご存知の方もいるかもしれない。
「勝ち組」はジコチュー? 米研究者ら実験で確認
お金持ちで高学歴、社会的地位も高い「勝ち組」ほど、ルールを守らず反倫理的な振る舞いをする――。米国とカナダの研究チームが、延べ約1千人を対象にした7種類の実験と調査から、こう結論づけた。28日の米科学アカデミー紀要に発表する。
実験は心理学などの専門家らが行った。まず「ゲーム」と偽って、サイコロの目に応じて賞金を出す心理学的な実験をした。この結果、社会的な階層が高い人ほど、自分に有利になるよう実際より高い点数を申告する割合が多かった。ほかに、企業の採用面接官の役割を演じてもらう実験で、企業側に不利な条件を隠し通せる人の割合も、社会的階層が高い人ほど統計的に有意に多かった。別の実験では、休憩時に「子供用に用意された」キャンディーをたくさんポケットに入れる人の割合も同じ結果が出た。
(朝日新聞デジタル、2012年2月28日)(http://www.asahi.com/science/update/0228/TKY201202270655.html)
もちろんこれらのキャンディー好きがサイコパスだとは言えないだろう。しかしおそらく「プチ・サイコパス」と考えてもいいのかもしれない。物事には程度がある。サイコパスにも「ちょいワル」程度から連続殺人犯までのスペクトラムがあるはずだ。その中でかなりの部分が、社会的な成功者の中に見られてもおかしくない。
ブログで書くのがふさわしいかはわからないが、二か月前に週刊文春で話題になった某大物政治家の妻の手記のことを私は思い出す。私は前から彼の人格ことが気になっていたが、やっぱりか、という感じである。政治の世界もまたサイコパス率が高いのかもしれない。ここで皆さんは気になるかもしれない。彼らもまた脳に異常があるのだろうか? 「立候補するに当たっては、内側前頭前野と側頭極の大きさが一定以上であることが条件とされます」なんちゃって。
サイコパスは治療可能か?
ところでサイコパスは生まれつきの脳の障害であるとしたら、それを治療するという試みはおよそ意味がないことにはならないだろうか? しかし現在のように脳の画像技術が発達していない時代には、彼らを真剣に「治療」しようという試みが少なからずあった。
1960年代にアメリカのある精神科医が実験を行ったという。彼が考えたのは、「サイコパスたちは表層の正常さの下に狂気を抱えているのであり、それを表面に出すことで治療するべきだ」ということだった。その精神科医は「トータルエンカウンターカプセル」と称する小部屋にサイコパスたちを入れて、服をすべて脱がせ、大量のLDSを投与し、お互いを革バンドで括り付けたという。そしてエンカウンターグループのようなことをやったらしい。つまり心の中を洗い出し、互いの結びつきを確認しあい、涙を流し、といったプロセスだったのだろうと想像する。そして後になりそのグループに参加したサイコパスたちの再犯率を調べると、さらにひどく(80%)になっていたという。つまり彼らはこの実験により悪化していたわけだ。そこで彼らが学んだのは、どのように他人に対する共感を演じるか、ということだけだったという。
1960年代にアメリカのある精神科医が実験を行ったという。彼が考えたのは、「サイコパスたちは表層の正常さの下に狂気を抱えているのであり、それを表面に出すことで治療するべきだ」ということだった。その精神科医は「トータルエンカウンターカプセル」と称する小部屋にサイコパスたちを入れて、服をすべて脱がせ、大量のLDSを投与し、お互いを革バンドで括り付けたという。そしてエンカウンターグループのようなことをやったらしい。つまり心の中を洗い出し、互いの結びつきを確認しあい、涙を流し、といったプロセスだったのだろうと想像する。そして後になりそのグループに参加したサイコパスたちの再犯率を調べると、さらにひどく(80%)になっていたという。つまり彼らはこの実験により悪化していたわけだ。そこで彼らが学んだのは、どのように他人に対する共感を演じるか、ということだけだったという。
サイコパスの問題は、オキシトシンともアスペルガーともつながる
この一般人の持つサイコパス傾向の問題は、これまでに論じたオキシトシンの話とも、アスペルガー障害の話とも、そして話を複雑にして申し訳ないが、ナルシシズム(自己愛)との問題とも複雑に絡み合っている。要は他人の心、特に痛みを感じる能力の欠如に関連した病理をどうとらえるか、ということになる。ここに列挙された状態はいずれも男性におきやすいということになるが、そこで想像できる最悪の男性像は目も当てられない。まず発達障害としてアスペルガー障害を持ち、内側前頭皮質の容積が小さく、そしてオキシトシンの受容体が人一倍少なく、しかも幼少時に虐待を受けていて世界に対する恨みを抱いているというものだろう。しかしそれだけでは足りない。彼は同時に生まれつき知的能力に優れ、または何らかの才能に恵まれていて、あるいは権力者の血縁であるというだけで人に影響を与えたり支配する地位についてしまった場合などうだろうか。まさに才能と権力と冷血さを備えたモンスターが出来上がるわけだが、歴史とはこの種の人間により支配されていたという部分が多いのではないか。ヒトラーは、信長はどこまで重なっていたのだろうか? いずれにせよ私は再びいつもの嘆息を漏らすしかない。「男は本当にどうしようもない・・・・・」