これまで幼少時のケアとオキシトシンとの関係について論じたが、それはオキシトシンが早期のネグレクトに由来する精神疾患を治療する可能性を示していることにもなる。その点で注目されるのが境界パーソナリティ障害(BPD)などの治療である。BPDが幼児期のトラウマに由来するという説は欧米において主流になりつつあるが、オキシトシンがその治療にも効果があると考えるのがEric Hollander とそのグループである。彼らの研究によれば、オキシトシンを投与することで、BPDの患者さんたちのストレスに対する感情反応(血中のコルチゾール濃度などにより計測される)が大きく軽減されたという。(Hollander, E et al. Oxytocin administration attenuates tress reactivity in borderline personality disorder: a pilot study. sychoneuroendocrinology 2011;36(9):1418-21.)またBPD以外にも幼児期のトラウマがかかわる様々な疾患の治療可能性にもつながるという。それらはPTSD,うつ病、不安障害まで含まれる。
ここで読者は「うつ病や不安障害までトラウマが原因なのか?」と疑問に思うかもしれない。もちろんそれらの疾患は幼児期のトラウマのみによって引き起こされるわけではない。様々な要因がそれらの発症の引き金になっているが、そのうちの一つが幼児期のトラウマというわけである。そしてオキシトシンによる治療により、それらの発症の可能性が少しでも低下する可能性があるということになる。
最近オキシトシンによる治療が注目を浴びている疾患として、PTSDを挙げておかなくてはならない。これについてはオランダのミランダ・オルフの研究が注目されている。オルフは、オキシトシンが二つの機序でPTSDに有効であることを強調する。一つは扁桃核の反応性を抑える性質であり、もう一つは、本書でもすでに論じた報酬系に作用し、心地よさを増すという性質である。そこでオキシトシンをPTSDの認知行動療法に用いてその効果を高めることが出来るというのがオルフの主張である。
http://alfin2100.blogspot.jp/2010/12/female-brains-reaction-to-stress.htmlより借用
オキシトシンに関しては、それ以外にも様々な研究が行なわれているようである。これらに関する情報は、”Oxytocin Central”というものすごいサイトがあり(http://oxytocincentral.com/2011/03/oxytocin-eases-stress-and-anxiety/)オキシトシンに関する最新の研究の成果を網羅している。ぜひ参照されたい。