2012年7月7日土曜日

続・脳科学と心の臨床(41)


「解離現象が教えてくれる脳の機能」の心理士への教訓

解離性障害、特にDID(解離性同一性障害)の治療に当たる心理士や精神科医は、しばしば逆風に晒されていることを実感する。「あちらの世界に行ってしまったんだな」という視線。そこにはしばしば憐憫さえ感じられることがある。日本の精神分析関係の人々の間では解離を扱わないという不文律があるようであるが、良識ある精神科医の間にも「私は解離性障害には懐疑的です」と公言する人は少なくない。
 解離性障害の患者を治療する際は、治療者はその姿をどのように見られているかをどこかで意識せざるを得ないという事情があるわけであるが、その原因は何と言っても人格の交代現象が、あまりに私たちの常識の外にあるからである。ある人格Aが人格Bに乗っ取られるという現象は、やはり起きるはずのないことであり、オカルト的であり、まともに取り合ってはならないもの、という気を起こさせる。それは私にとっても同じであり、どこかで「そんな馬鹿な」という気持ちはいつも持っている。ただ目の前に現れる患者は、DIDに対する懐疑的な視線により傷つき、誤解を受けてきている。それこそが決定的に重要なことなのである。

"La théorie c'est bon mais ça n'empêche pas d'exister" (J-M Charcot)