2012年6月1日金曜日

続・脳科学と心の臨床(10)


面接者への教訓

BLの実験を知るようになってから、私はひとつ来談者に安心してもらうような話のテーマを増やすことができた。それは「私たちは死ぬ瞬間を体験しないで澄む」ということだ。これを話すと安心する人は少なくない。

10年以上前にニューヨークで起きた「911」の事件を今でも鮮やかに覚えている人は多いだろう。そして旅客機がビルに突入する映像を見て、それを操っているテロリストや、その乗客にわが身を置いたという体験がゼロの人はいないであろう。旅客機がビルの中腹に突入し、一瞬にして粉々になってビルの中に吸い込まれた。おそらく一秒の何十分の一かのうちに、人々の身体は、旅客機の期待とビルを構成している建材や中の家具、そして中で働いていた人々すべては、超高温で一瞬にして融合したわけだ。この苦しみを体験した人はいただろうか?たとえ一瞬でも?答えは「ノー」である。なぜなら人はそれを体験するまでに約0.5秒かかるから。乗客に、そしてテロリストに最後に体験されたのは、突入の0.5秒前までなのである。

もし私たちの死の恐怖が、その直前の極限に近い苦痛を体験することへの恐れにあるとしたら、それから私たちは実質的に解放されている。たとえ高いビルからまっさかさまに落ちて地面に身体をたたきつけられるとしても、その瞬間を体験するときにはすでに私たちは死んでいるのである。体中の骨が一瞬にして粉々になる際の極限の痛みを体験することは絶対にない。

最近家人に薦められて、「死に方のコツいう高柳和江著 小学館文庫、2002年)という本を読んだが、なるほど評判になる本だけあり、死ぬことへの恐怖がかなり軽減されるような考え方がたくさん書いてある。そこに私はこのBLの教訓を付け加えたいほどだ。