2012年5月23日水曜日

続・脳科学と心の臨床(3)

さて第一の疑問にもどろう。報酬系は快の場合にオンになる、という仕組みだけでは、動物や人の行動を説明できない、という話だ。目の前に出されたケーキは、それを手を伸ばして口に入れるまでは快をもたらさないのであれば、手を伸ばして口にする、という行為はどのように動機づけられるのだろうか?答え(らしきもの)は次のようになる。報酬系は目の前にケーキが差し出された時にもうオンになる。つまり近い将来の快の予測だけでスイッチが入るのだ。すると人はそれを確実なものにする為に行動を起こすのである。更に詳しくは次のような事実が知られている。

報酬系ではドーパミン系のニューロンの興奮が常に一定のレベルで起きている。そして目の前にケーキを出されて、しかもそれを自分が食べていいのだ、と知った時に、その興奮のトーンが上昇して、またもとに戻る。これが「うれしい!」「やった!」という反応なのだ。後はそのトーンは実際のケーキを食べている時も余り変わらないという。しかしその代わりにケーキを食べることが出来なかったらどうなるか?例えばいざ口に入れようとしたら、そのケーキを誰かに取り上げられたりしたら?そのケーキを床に落としてしまったら?あるいはそれが蝋細工であるということを知ったなら?・・・・そのドーパミンニューロンの興奮のレベルが今度は一時的に落ちるのだという。
そこで報酬系とは、実際の快ではなく、快の予想に関して反応する仕組みであると考えられている。(この辺の事情は詳しくは「現代フロイト読本」第1巻(みすず書房、2008年)に「精神現象の二原則に関する定式」の現代的意義、と題して書いておいたのでお読み頂きたい。)
ところで私のこの説明をわかった人は? 実は私はまだまだ納得していない。しかしものの本を読むとこのくらいまでしか書いていない。あとは科学的なデータをネタにしつつ自分で考えよ、ということかもしれない。(続く)