次の週の月曜日になって、件の番組制作会社から電話があった。「水曜日の撮影の件はいかがでしょうか?」そうか、やはりそのつもりだったのね。返事をしなかった自分も悪いと思い、「わかりました。でも水曜は外来で、夜にならないと時間が空きません。それでよろしければ。」ということで、水曜の夜7時半に、私が中央線沿線のある駅の近くに借りているオフィスに来ていただいた。代表者のA氏、そして照明さんとカメラ係。スタッフは合計3人で皆若い。名刺をいただいた担当のA氏からしてまだ30歳代といった印象である。私のオフィスは狭く、ソファーをずらしてカメラの位置を決め、背景にラシャ紙のようなものを張って設定するのに少し時間がかかった。その間にA氏から「先生にこんな風におっしゃっていただきたいのですが・・・」と渡されたものを見ると、なるほど台本も大体出来ている。「子供はどうしてうんこが好きか」というテーマで、精神分析でいう肛門期の話をして欲しいとのこと。これは予測していたのである程度期待されていたとおりの話をすることになった。「本当は、子供はウンチがタブーとしての存在であり、また擬似ウンチとしての粘土や泥んこが好きで・・・・」などとちょっと準備していた話をする余裕はなかった。
いよいよ場が設定され、ライトに照らされた私は2分くらいのトークをしたが、時々噛む。こちらは話すときはいつものことなので、気にもしなかったが、やり直して欲しいとのこと。「エー? こっちは噛んでナンボなのに」とか、ショーもないことを思いながら、仕方なく繰り返す。肛門期について話すたびに内容がかなり違うのが自分でも面白かった。さて撮影が終わり、若者が引き上げて言ったのが、8時半前。特に映像がどのような使われ方をするのか、とかギャラとか契約とかの話はなかった。
うちに帰って神さんにただ「取材を受けたよ」と話し、ほかには誰にも話さず、誰かが見たら何かいってくれるだろうかと思った。何も宣伝することはないし、何しろウンチの話だからね・・・・。
ということで数日後実際に放映されたはずだが、どうなったか。
ナーンにもなかったのである。いや正確に言えば、ある一人の院生さんから「先生がテレビに出ているのを昨日見ましたよ。夕方4時半ごろでしたよ。」フーンそうだったのか。昨日か。しかしウィークデイの4時半か?外で仕事をしている人はほとんど見ないだろうな。
結局なんてことはない。ほとんど誰からも反応なし。テレビに出るってそんなもんだ。それはそれで話の種にはなった。
さてこの話はあまりここでは終わらなかった。というよりはここで終わってしまったから終わらなかった、というべきか(相変わらずの持って回った言い方)。それで結局、「テレビ局って、なんだかなー」という私のため息になっていくのだが、それはまた後で。(続く。)