2010年5月15日土曜日

(承前)
 ここで私たちは、もう一つのタームを設けなくてはならなくなる。先程IPA(生得的に快感を生む行動)という概念を紹介したが、その快感を「検出する」ような脳内の器官である。それを仮にPES pleasure evaluating system (快感評価システム)と名づける。また同様に不快を評価するような器官としてDES Displeasure Evaluating System も考えることになる。現在の脳科学は、両者が別々の器官であることを教えているので、この両者は区別しておく必要がある。このDESに関しては、実はPain Evaluating System 苦痛評価システムという名称の方が妥当であろうが、それだと両方ともPESになってしまって具合が悪い。
 さて当面は快感について、すなわちPESについて述べるが、その議論のかなりの部分は、DESについても同様に当てはまるであろうことを了解していただいて、議論を進めよう。
ここで重要なのは、PESは、快感中枢そのものではない、ということだ。快感中枢(FBMなど)は快感を体験する場所、PESは快感を「検出」する場所である。それが快感中枢により兼務されている可能性はあるが、そうとは限らない。
 実際のところこのPESが脳のどこに存在するのかは不明である。でも確かに存在し、それが私たちの行動を生んでいる。ある行動を起こすことをイメージする。PESがある種の値を示すことにより、その行動にゴーサインが出される。このプロセス自体はおそらくあらゆる生物にある程度共通しているのであろう。行動の大半が本能により導かれる生物でさえ、あるいはそのような生物であるからこそ、そのPESにより導かれる行動がより大きな位置をしめる。本能に基づいた行動においては、それが快感を予測するような行動のパターンがある程度出来上がっていて、そこに試行錯誤や行動を創出するプロセスが必要とされていないのである。