1+2を少しシンプルにまとめた。実は今●●学会に向けての抄録作成中である。
心的トラウマが脳および心に及ぼす影響に関する新たな知見が得られるようになり、PTSDや解離症という疾患概念にも新たな目が向けられるようになって来ている。PTSDと解離症を結ぶ研究として注目されているのが、アラン・ショアによる愛着期における右脳の発達に関する研究である。妊娠後期の3か月から生後2年までの愛着期は右脳の神経回路の発達の臨界期にあたり、そこでの愛着関係の阻害、すなわち愛着トラウマは後の精神発達に重要な影響を及ぼす。特にそれによる右脳のトラウマやストレスの処理が損なわれる結果として、PTSDの典型的な症状や解離症状が生じる。すなわちPTSDと解離はトラウマ反応という一つの現象の二つの側面という理解がなされるようになってきている。ショアは特に愛着期における乳児と養育者の右脳同志の交流に注目し、それが乳児の社会情動脳としての右脳の発達に寄与することを見出した。そして愛着を通して高次右脳(眼窩前頭皮質など)と皮質下右脳(扁桃体、自律神経系)の有機的な神経接続が形成され、それらの連携に基づいた神経基盤がストレスへの耐性を育む。しかし養育者との間での愛着が阻害されると、後のストレス時にこの連携が損なわれて交感神経系の過活動と背側迷走神経系の過活動の双方が生じ、このうち前者の過活動が優勢な場合に非解離性のPTSD症状を、後者が過活動の場合に解離症として表れる。いわばストレス時にアクセルとブレーキの両方が踏まれた状態に形容できるが、そのストレスが一定の度合いを超えると後者の背側迷走神経系の過活動により、その極端な表れとしての 擬死反射 apparent death or feigning death に至る。Lenius や Schore は、愛着期におけるトラウマが右脳のストレス処理機構に障害を及ぼし、しばしばこの解離反応を生むという現象を明らかにしたのである。ICD-11(2022)に登場したCPTSDの概念はこの問題の理解を一歩進める役割を果たしたと言えよう。CPTSDは主として幼少時の(定義は必ずしもそうと限定してはいないが)頻回のトラウマによる長期的な影響に関する診断であり、主として単回性のトラウマによるPTSDよりさらに慢性的で深刻な、パーソナリティ全体に及ぶような状態を意味する。このようにCPTSDの概念は臨床的に非常に有用でありながらも、トラウマをめぐる問題の複雑さを浮き彫りにするという役割も担った形となっている。