2024年9月26日木曜日

統合論と「解離能」18 

このように考えると、やはり圧倒的に多い「統合」的なプロセスは、主人格が思考や記憶、身体感覚の一部に、他の人格のそれを感じるという形である。例の「移植タイプ」ということになる。そしてこれはICD-11の partial DID の概念に繋がる気がする。そこでこのPDIDについて紹介。私自身が講座神疾患の臨床4(中山書店、2020)p.90に書いた内容を以下に引用する。 ICD-11で は新たに「部分的解離性同一性症」が掲げられているが,この疾患においては,優位なパーソナリテイの意識や機能に対して,ひとつのパーソナリティ部分としてのまとまりを欠く非優位なパーソナリテイ部分が侵入を行う疾患である。本症におけるアイデンティティの破綻は,「二つ以上の,他とはっきり区別されるパーソナリテイ状態(解離アイデンテイテイ)の体験を特徴とし, 自己感と意志作用感の顕著な断絶を伴う。各パーソナリテイ状態は,独自の体験,知覚,思考,および自己,身体,環境とのかかわり方のパターンを有する」「一つのパーソナリテイ状態が優位で, 日常生活(たとえば,子育てや仕事)の機能を担うが,一つ以上の非優位のパーソナリティ状態による侵入を受ける(解離性侵入).この侵入は,認知的(侵入的思考),感情的(恐怖,怒り,または羞恥心などの侵入的感情),知覚的(たとえば侵入的な声や一瞬よぎる視覚,触られたという感覚),運動(たとえば片腕の不随意運動),および行動(たとえば意志作用感や自分の行動であるという感覚を欠く動作)に及びうる。これらの体験は,優位なパーソナリティ状態にとってはその機能を妨げ,かつ典型的には不快なものとして体験される」「非優位の状態は,意識および機能について,日常生活の特定の側面(たとえば子育てや仕事)を反復的に行うほどには,意識や機能の実行統制を担うことはない。しかし時折,限定的かつ一時的なエピソードにおいて,特定のパーソナリテイ状態が,限局的行動(た とえば極度の情緒的状態への反応や自傷のエピソードの最中や外傷的な記憶の再演中)のための実行制御を担うことがある」 つまりもう一つの人格は表に出ることなく、「邪魔をする」というわけだ。これは私が移植タイプと呼んでいるものにかなり近い。このもう一つの人格は、いわば「人格未満」として扱われることになる。なぜなら「ひとつのパーソナリティ部分としてのまとまりを欠く非優位なパーソナリテイ部分が侵入を行う疾患」と定義されているからだ。この場合優位なパーソナリティをAとして、非優位な部分を a とした場合、A と a は「統合されている」と言えるのだろうか?ある意味ではイエスで、別の意味ではノーだろう。イエスなのはこれが自我状態療法で解離障壁がかなり低下した状態であり、統合の過程にあると判断するであろうからだ。しかしそのようなニュアンスはこの診断には読み取れない。しかし言い換えるならば、統合状態はたかだかこの状態と言えるのかもしれないということだ。