2024年7月23日火曜日

PDの臨床教育 推敲の推敲 6

  さて特性論で付け加えておかなくてはならないのが、「ボーダーラインパターン」であり、ICDでは5つの特性の次にこれが「特定項目specifier」として、あたかも6番目の特性に準ずる物の様に扱かわれているのだ。(そして他の特性と同様6D11.  … というコードが与えられている。)

 境界パーソナリティ障害(BPD)はDSM-Ⅲの登場の時から記載されており、ある意味ではカテゴリカルな診断基準の筆頭に置かれており、10のカテゴリーの中で一番研究され、また診断されることが多いPDのために、それを特別に加えた形になっている。そしてICD-11では次のように述べている。「ボーダーラインパターンはこれまで述べた特性、特に陰性情動、非社会性dissociality 脱抑制などとかなりの重複がある。しかしこの特定項目は、特定の精神療法的な治療に反応する患者を同定することに助けとなろう。」

ただしこのボーダーラインパターンはBPD というカテゴリカルな診断の遺物とみなされかねないこと、またこの診断はトラウマにより生じることが多いためにパーソナリティ特性に並べて論じることは適切でないことなどの意見もあったとされる。それでも最終的にICD-11 にこれが加わったことは、異なる識者間の妥協の産物であるという見解もある。ちなみにICD-11 で掲げられたボーダーラインパーソナリティの特徴は、DSM-5 におけるBPD の診断基準におおむね準じ、以下のように示されている。

「ボーダーラインパターンが特定されるのは、パーソナリティの障害が対人関係、自己像、感情の全般にわたる不安定なパターンや顕著な衝動性により特徴づけられる場合であり、それらは以下の9の項目のうち5つを満たす事で示される。現実に、または想像の中で見捨てられることを避けようとするなりふりかまわぬ努力・対人関係の不安定で激しいパターン・顕著で永続的に不安定な自己像や自己感により表されるアイデンティティの障害・非常にネガティブな感情の際に、自己破壊的となる可能性のある行動につながるような唐突な行動を見せる傾向・繰り返される自傷のエピソード・顕著な気分反応性による感情の不安定性・慢性的な空虚感・不適切で激しい怒り,または怒りの制御の困難・情動が⾼まった際の⼀過性のストレス関連性の妄想様観念または重篤な解離症状。」

 ここに示されたとおり、この特定項目だけは、他の特性と異なり、9のうち5つというポリセティックモデルを採用している点も特徴的である。しかしICD-11ではこれに加えて、常に存在するわけではないが、と断り以下の特徴をもあげている。

自分を悪く、罪深く、おぞましくdisgusting 卑劣なconptemptible 存在と感じる。

A view of the self as inadequate, bad, guilty, disgusting, and contemptible.

自分が他の人と極めて異なり隔絶された人間のように感じ、苦痛を伴う疎外感と孤独を感じる。An experience of the self as profoundly different and isolated from other people; a painful sense of alienation and pervasive loneliness.

また拒絶に極めて敏感であり、対人関係で一貫した適切な信頼関係を結ぶことが出来ず、しばしば対人間の兆候を誤読する。Proneness to rejection hypersensitivity; problems in establishing and maintaining consistent and appropriate levels of trust in interpersonal relationships; frequent misinterpretation of social signals.