2024年7月9日火曜日

PDの臨床教育 推敲 14

 さて特性論で付け加えておかなくてはならないのが、ICDでは以上の5つに加えて「ボーダーラインパターン」なるものが加わるのだ。つまりボーダー的であることを一種の特性のようにして扱っているのだ。それが証拠に他の特性と同様6D11.  … というコード名を冠している。名誉特性? ビック5ならぬビッグ6?これは理屈に合いにくい。なにしろBPDはカテゴリカルの典型ではないか、とも考えられるからだ。ただし確かに10のカテゴリーの中で一番研究され、また診断されることも多いのがこのボーダーラインだったわけで、これはぜひとも入れたいという気持ちもわかる。BPDはいわばPDの「顔」だったわけであり、これがなくなるのはあまりに物足りない・・・・・。

 さてICD-11の公開テキストでは特記事項として次のように述べている。「ボーダーラインパターンはこれまで述べた特性、特に陰性情動、非社会性dissociality 脱抑制などとかなりの重複がある。しかしこの特定項目は、特定の精神療法的な治療に反応する患者を同定することに助けとなろう。」

ただしこのボーダーラインパターンはBPD というカテゴリカルな診断の遺物とみなされかねないこと、またこの診断はトラウマにより⽣じることが多いためにパーソナリティ特性に並べて論じることは適切でないことなどの意⾒もあり、最終的にICD-11 にこれが加わったことは異なる識者間の妥協の産物であるという⾒解もある。ちなみにICD-11 で掲げられたボーダーラインパーソナリティの特徴は、DSM-5 におけるBPD の診断基準におおむね準じている。ここにICDとDSMの事実上の連動関係は明らかなように思える。改めて記するまでもないが、それらとは以下の通りである。

「ボーダーラインパターンが特定されるのは、パーソナリティの障害が対⼈関係、⾃⼰像、感情の全般にわたる不安定なパターンや顕著な衝動性により特徴づけられる場合であり、それらは以下の多くにより⽰される。現実に、または想像の中で⾒捨てられることを避けようとするなりふりかまわぬ努⼒・対⼈関係の不安定で激しいパターン・顕著で永続的に不安定な⾃⼰像や⾃⼰感により表されるアイデンティティの障害・⾮常にネガティブな感情の際に、⾃⼰破壊的となる可能性のある⾏動につながるような唐突な⾏動を⾒せる傾向・繰り返される⾃傷のエピソード・顕著な気分反応性による感情の不安定性・慢性的

な空虚感・不適切で激しい怒り,または怒りの制御の困難・情動が⾼まった際の⼀過性のス

トレス関連性の妄想様観念または重篤な解離症状。

しかしICD-11ではこれに加えて、常に存在するわけではないが、と断り以下のものをあげている。


自分を悪く、罪深く、おぞましくdisgusting 卑劣なconptemptible 存在と感じる。

A view of the self as inadequate, bad, guilty, disgusting, and contemptible.

自分が他の人と極めて異なり隔絶された人間のように感じ、苦痛を伴う疎外感と孤独を感じる。An experience of the self as profoundly different and isolated from other people; a painful sense of alienation and pervasive loneliness.

また拒絶に極めて敏感であり、対人関係で一貫した適切な信頼関係を結ぶことが出来ず、しばしば対人間の兆候を誤読する。Proneness to rejection hypersensitivity; problems in establishing and maintaining consistent and appropriate levels of trust in interpersonal relationships; frequent misinterpretation of social signals.