アルファ―碁の具体的な話をしよう。韓国の囲碁チャンピオンのイ・セドルは第一戦に負けたが、注目されたのは第二戦のアルファ―碁(先手黒石)の打った第37手目である。右辺中央の白石に第5線の高い位置から掛かっていった手が皆を驚かせた。ある程囲碁を知っているものにとっては極めて悪手で素人でも指さないような手であった。
アルファ―碁は「壊れた」のではないかと関係者は首を傾げ、対戦者のイ・セドルは相手の「悪手」にほくそ笑み、これを期に巻き返しを図った。しかし中にはこれはアルファー碁の創造性の証明であり、その高度な戦況の判断から来るものと考える人もいた。実際アルファ―碁自身も人間であったら千人に一人しかこの手を打たなかったであろうことをはじき出していたという。ところが驚いたことに、手が進んで行く内に分かったのは、何十手か後に、戦況はその悪手と思われた手を起点として見事に地が形成されていくという形を取ったのだ。
つまりその手は未来に進むべき方向を既に予測していたことになる。そして結局アルファ―碁はその第二戦にも勝ってしまったのだ。