ところでノルトフが135ページ目あたりで述べている点はとても大事である。彼はうつ状態において、正中線領域(つまりDMN)の活動が高いだけでなく、正中線外領域は過剰に低下しているという。つまり外に反応することが出来ずに、内側にこもりっきりであるということだ。つまりはDMNとTPN(Task positive network),ないしはWMNワーキングメモリーネットワーク)のバランスが大事であり、それが取れていないのが鬱状態(あるいはその他の精神病理)というわけであろう。両者の関係は流動的、相互的で弁証法的であれ、ということだろうか。これは交感神経と副交感神経の関係性に似ているようだ。ここで注意すべきはWMNとDMNのシーソー関係だ。一方が活動をしていると他方が抑制される。同時に興奮はしないということになる。そこが弁証法的、ということになる。その意味で両者は synergistic ではないのだ。そしてそこでポイントとなってくるのがあたかもスイッチングの役割を果たしているような salient network の存在である。ここは島皮質と前帯状皮質が担当だ。
さてここで脱線だ。私は昨日見た夢にかなり影響を受けた。私は外国人の集団の中に居て、そこでの居場所をうまく見つけられずにいて困っていた。すると毛深く、一見して中年のアメリカ人とわかる男性が近づいてきて、何かを言いながらにこにこ笑って近づいてくる。コロナの関係か、私とひじの先のタッチで挨拶をしようとしているので私は応じた。よく聞くと彼は「ヨロシーク、オネガーイシマアス」と言い、”This is
the Japanese style” とか言っているのだ。私はそれを聞いて、ハッとした。そうか、「よろしくね」、と言ってニコニコ近づいて行けば相手は胸襟を開いてくれるはずだ。私の方の態度がかたくなで防衛的だったのだ。「それが本来の日本の社会での関係の取り方ではないか。それを逆に外人に教えられるなんて」。そしてここで目が醒めたのである。
私はこの夢にもはや意味を見出そうとはしなかった。「夢に教えられた」と単純に思ったのである。私はあらためて、「デフォルトモードは他者である」、と思えて納得がいった。脳はそれ自身が個人である、という最近書評を頼まれた本の原題が思い浮かんだ。The Brain
has ha Mind on its own という本で著者は Jeremy
Holmes という方だ。まさにこの表題の通りなのである。ただしそう思っている私もまた脳の産物なのだ。そしてこれが人間が対自存在たるゆえんである。その場合心が対面している自分自身とは、実は脳(DMN)ということになるだろうか。