2022年5月29日日曜日

精神科医にとっての精神分析 1

 ○○学会で6月にシンポジウムがあり、その発表の準備をしなくてはならない。そのテーマは「精神科医にとっての精神分析とは何か」という題である。あらかじめ抄録に次のようなことを書いた。

「前世紀初めにS.フロイトにより生み出された精神分析は、現代的な装いをまといつつ私たち精神科医の指針となるべき理論として存在し続けている。G.ギャバードは精神力動的精神医学を「無意識的葛藤や精神内界の構造の欠損と歪曲、対象関係を含み、これらの要素を神経科学の現代の知見と統合する」(精神力動的精神医学、2014)ものとして定義するが、それをよりよく理解し実践するのは精神分析の心得を有しつつ、神経学的な知見に明るい精神科医であると私は考える。最初は神経科学者として出発したフロイトは無意識を含む心の世界の複雑さに魅了され、当時知ることのできた神経学的所見を用いつつ心の理論を作り上げた。その後100年にわたる臨床的な知見を蓄積した現代の精神分析は、ギャバードの定義に見られるように、脳科学的な情報のみならずトラウマ理論や愛着理論を含みこんだ体系としてとらえ直さなくてはならない。現代的において精神分析を学ぶ理由は、もっとも長い歴史を持つ心の理論としての威信をかけて、現代の分析家たちがその理論を刷新し続けているからである。特に米国を中心とする関係精神分析やW.ビオンをはじめとする現代的なクライン派は、脳を複雑系の見地からとらえ、現代の脳神経科学と合致する形で心の理論をくみ上げることを模索している。特に関係精神分析はトラウマ理論、愛着理論、解離理論、差別論、倫理学、哲学といったあらゆるジャンルを含みこみつつ、治療者と患者の関係性を重視し、無意識や意識外の心的活動がいかに治療関係に反映されるかへの注目を続ける。」

何でもかんでも詰め込んだ感じだが、他の二人の論客が精神分析の本流に位置するので、私は私なりの色を出す必要がある。その結果こんな抄録になった。さてこれからどう進めるか、である。