2022年3月16日水曜日

他者性 その40 解離性障害の歴史の冒頭をちょっと書き直した

 解離性障害のオーソリティたちの姿勢

本章で私は最近の解離性障害の研究について概説し、そこで示されるいくつかの特徴を、本書の中心的なテーマである「解離における他者性」という文脈から論じてみたい。その要旨は、解離研究の歴史は、交代人格を一つの人格として認めないという歴史でもあったということである。

解離性障害の研究史はすなわちヒステリーに関する研究の歴史として始まった。1880年代はTheodore Ribot, Jean-Martin Charcot, Pierre Janet らにより近代的なヒステリー概念が整備された後、精神分析の隆盛とともにそれは衰退していった。その後1970~80年代に解離性障害の研究は新たな隆盛の時期を迎えることになった。そして従来のヒステリーは解離性障害という新たな装いで1980年に米国の精神障害の診断基準であるDSM-Ⅲに掲載され、一躍脚光を浴びることになったのだ。

ただしそれに先立って、197080年代の米国の精神医学の世界においては、解離性障害そのもの理解に努めるという動きが存在していた。Richard Kluft, Frank Putnam, Colin Ross, David Spiegel, Onno van der Hart などの高名な精神医学者が解離の臨床を行い、それに基づく論文を多く発表した。それがDSMにおける解離性障害の掲載に繋がったのである。しかしそこで提唱されたのは、交代人格を一人の人間として遇する、としてではなく、むしろ部分、断片と見なす傾向だったのである。私はこのことを最近にやってより深く理解するようになり、それに従いこれまでは常識と考えていた解離の理論に様々な問題を見出すようになってきたのである。