2022年1月1日土曜日

偽りの記憶の問題 22

 何度も書くが、このショウの本を読んだら私は「偽りの記憶」に関する依頼論文に着手することになる。まだ全体の方針が定まっていないのだが、多少は見えてきたような気がする。
 第9章は「秘密の悪魔的儀式」という章であるが、これが虚偽記憶というテーマの極めつけという気もする。西洋人はとにかく物事を極端に推し進めるところがある。例えばコロナのワクチンに対して賛成派と反対派が出るのはわかる気がするが、それが示威行進や政治運動にまで発展するのが彼らの性質を反映している。とにかく血の気が多いのだ。肉食的、といってもいい。そして偽りの記憶というテーマでも、大袈裟に言えば、血で血を洗うという事が生じている。そして「偽りの記憶」問題の極端さを示すのが、この悪魔的儀式 satanic cult と呼ばれる問題だ。いくつかの際立った事件がここに描かれている。フェルスエーカー託児所事件というのは1984年の託児所で起きた事件である。このくらいは常識として知っておいた方がいいかもしれない。ここである母親が4歳半の子供の最近の行動異常、つまり夜尿や乱暴の振る舞いなどが気になり、息子が性的虐待を受けていたのではないかと思い始め、彼女の弟に息子と話すことを頼む。弟は昔性的虐待を受けたことがあり、弟はその話を彼女の息子に話し、同じことが起きていた場合は自分に話すように、と伝えたという。息子はある男性(ジェラルド・アミロー)に服を脱がされたという話をするが、その男は息子がお漏らしをした際の着替えを手伝っていたという。その話を聞かされた母親は驚き、託児所に訴え、警察が捜査を始める。そして同じ託児所に子供を預けていた親たちは集会を開き、性的な虐待を受けた子供に特徴的な症状、例えばお漏らし、悪夢、食欲低下、通園途中で泣き出す、などの「症状」を示す子供たちを洗い出し、彼らに「粘り強く」虐待について尋ね、子供が虐待を否定しても信じる必要はないとまで指示したという。さらに面接者は性器を備えた人形を使用し、恐怖体験を打ち明けるように子供たちに促し、その結果としてあり得ないような架空の出来事について語る子供たちが続出したとある。

この事件に関して一つの朗報は、いったんは有罪の判決を下された関係者が1998年の裁判で覆されたことである。ただし事件に一番関与していると言われたアミローの判決は覆されなかったという。

ショウの本はこの後、いわゆる「性的虐待適応症候群」なる概念についての解説に及ぶ。これは英語のウィキペディアにも乗っている。CSAASという。以下に少し引用する。

Child sexual abuse accommodation syndrome (CSAAS) という概念はローランド・サミット Roland C. Summit という医師により1983年に提唱された概念で、要するに性的虐待をサバイブした子供たちの様子を描いた。しかしこの「症候群」という表現のせいで、一種の診断名のように扱われたことは本人も不満であったと書かれている。とにかく彼の概念はその後に法廷での証言に甚大な影響を与えたというのだ。

 特に性的虐待を開示しないのは自然なことで、いったん開示し始めれば精神的な抑制が軽くなるという。しかしこれに対しては別の研究では、「実際にあったことが示されている虐待の場合、否認や撤回は多くない」という研究もあるという。また心理学的及び医学的な症状では、被虐待児とそうでない子供たちを識別できない」という研究もあるという。

P265 あたりに重要なことが書かれている。虐待を受けた子供たちに見られる傾向のある所見、例えばほかの子供たちへの暴力、欠席や遅刻、夜尿や便失禁などがあげられることは多いが、確かに虐待と関係ある場合が多い。しかし虐待を受けた子供たちの三分の一は無症状だったという。すると虐待を受けた子供たちの症候群というものは存在せず、虐待を受けた子供の反応はケースバイケースであるという結論になってしまうという。