報酬系の機能と快、苦痛
ここで報酬系についてその働きを見てみよう。報酬系は先に述べた中脳の側坐核や中核野の周辺に広がる領域である。そこで特に重要なのが内側前脳束 medial
forebrain bundle という部位で、さらに重要なのが、VTA(腹側被蓋野)から側坐核に向かって投射しているドーパミンニューロンである。VTAにはそのドーパミンニューロンの細胞体があり、そこから側坐核に延びる軸索の興奮が快と一致する。私たちが身体的に得られる快、精神的に得られる快がすべて、このMFBにおけるドーパミンニューロンの興奮に関わっているからだ。ただしドーパミンは嫌悪刺激でも放出されることがあり、また嫌悪刺激はアセチルコリンの放出にも関連している。つまり報酬系は快感のみではなく、嫌悪刺激とも深く関係している、極めて複雑なシステムであるということだ。ちなみにVTAから放出されるトーパミンとアセチルコリンの比(D/A比)が問題とされるという(後に詳述する)。いずれにせよ報酬系は報酬刺激にも嫌悪刺激にも深くかかわっていることになる。
さてこの報酬系は、報酬刺激や嫌悪刺激が中等度な場合は、そこで前者ではドーパミンが放出され、後者ではアセチルコリンが放出され、それが快と苦痛の体験につながる。それは生体に心地よさと苦痛を味わわせ、同時に前者を求めて、後者を回避するという行動を生み出す。それはその生体が生存していくために重要となる。その意味で報酬系は合目的的に働く。
ここで特に嫌悪刺激について考えよう。例えば私たちが毎日一定の時刻になると頭痛を覚え、それは一時間でおさまるとしよう。あなたはこの一時間を耐えれば通常の生活を営める。つまり痛みの体験は特に後には引かないことになる。しかしこの頭痛がかなり深刻であれば、話は少し違ってくるかもしれない。あなたはその時間が来ることを恐れ、また鎮痛剤を使って痛みを軽減させようとするかもしれない。その際報酬系ではアセチルコリンとともにドーパミンも放出されることはすでに述べた。この際のドーパミンが放出されることも、痛みをいやすことに貢献している可能性がある。また脳内では鎮痛剤に似たような物質が分泌され、みずから痛みを和らげようとすることが知られている。それがいわゆる「内因性オピオイド」であるが、報酬系でいずれにせよ嫌悪刺激については、報酬系は合目的的な機能を果たしていることになる。このように苦痛を体験するときの報酬系は極めて合目的的に働いていることになる。