ところでこの論文のありがたいことは、嫌悪aversion は報酬reward の対概念だ、と言ってくれていることだ。だから嫌悪についてのこの論文は報酬の逆の概念であるとして進めることが出来ることになる。ところで嫌悪の研究は、その定義があいまいなので、報酬に比べて研究が少ないとも書いてある。これも使えそうだ。
ネズミを対象にした研究は多くなされ、閉じ込めたり、尻尾にショックを与えるなどの刺激を与える。またオピオイドを与えてその後の離脱を体験させる(これが苦しいのだ)などの方法も用いるらしい。そしてその鳴き声の周波数がその嫌悪の表現として用いられるらしい。<これって、かなり残酷な話である。>Hoebel先生たちは電気ショックを与えてネズミの様子を観察したが、興味深いのは視床下部hypothalamus
への電気刺激もよく用いられるが、外側視床下部は報酬を与え、内側になるに従い、嫌悪刺激になるということだ。さらに食事を与えないという事で、慢性的な嫌悪と報酬を求める傾向の両方を調べることになる。
さてここらへんで私が分からなくなるのが、急性の嫌悪と慢性の嫌悪の差である。この違いが重要な意味を持つらしい。そんなに重要な事かいな、と思うのだが、よく出てくるのだ。そこでゆっくりと勉強してみたい。
時々与えられる嫌悪刺激に対しては、動物はその都度回復する。しかし繰り返されると別の状態になる。それが「慢性的な嫌悪」の状態というわけだ。まあそれはいいのだが、その例として出来るのがよく分からない。
慢性的な食事制限。これはわかる。薬物からの離脱、抑うつ、慢性疼痛、これらもわかる。しかし肥満obesity 、ブリミア、もそうであるというのがよく分からない。どうして肥満と過食が慢性的な嫌悪状態なのだろうか。ともかくもこれらは中枢のモノアミンの失調 central monoamine aberration が起きている、としてそれが以下に説明されるという。よく分からないながらも、鬱の状態と肥満、ブリミアの状態は神経科学的には類似しているという事らしい。まあそう理解して進めよう。
2021年7月8日木曜日
嫌悪 13
結局嫌悪についてあれこれ書いているうちに、本当は一番やらなければならないことを避けずに、受け入れることにした。地道に文献を読むことである。幸いネットでダウンロードできる素晴らしい論文を発見。「嫌悪状態aversive state の神経生物学」Umberg,
EN, & Pothos, EN.(2011)Neurobiology
of Aversive States. Physiol Behav. 25: 69–75.
ちょっと読んだだけでも知らないことばかりである。この世界では、Bart Hoebel らの研究が先駆的だったらしく、その解説がなされている。彼らの研究は報酬系についてのものだが、実は嫌悪状態aversive states の問題も深く関与しているので、こちらの方の説明を主にしたいと書かれている。そこでは報酬と嫌悪は必ずしも両極ではなく、環境からの刺激によっては、両者は連続体をなすという。<本当だろうか。私はこれまで快のスイッチと不快のスイッチは別だ、と主張してきた。そうでないと「イタキモチいい」状態を説明できないからだ。しかしここに書かれていることはその考えへの再考を迫られる可能性があるという事だ。> そこでキーとなるのが、報酬系における伝達物質であるドーパミンの活動とアセチルコリンの活動の比(ドーパミン/アセチルコリン比)であるという。一応「D/A比」という書き方をしておこう。そして嫌悪は、この「D/A比」の高まりに関係しているという事、そして脳内オピオイドは、この二つの伝達物質の関係に関与するのだという。<こんな基礎的なことを全く知らなかった。しかしここでも私の見解と一致する可能性が残される。つまり報酬系のスイッチ自体がプラス要素とマイナス要素の混合体であるという事だ。つまりスイッチを正方向に押す力と逆方向に押す力があるという事である。>