2021年4月6日火曜日

解離性健忘 1

 ある出版社から、「本日の精神科治療〇〇〇ブック」を企画するので「解離性健忘」と「パーソナリティ症の『離隔』」の項目の依頼が来た。似たような名前の企画や出版物はほかの出版社からは出されているが、この出版社としては初めてのものらしい。しかしこれを受けることについてはビミョウである。まずここには教科書的な内容を書くしかない。すでに定まっている定説の解説だ。つまりここに創造的な要素は組み込むことが出来ない。私にとってのベンキョウになるだけだ。さらにDSM-5が出版されたことで、いわば世界が準拠するテキストはすでに提示されているわけだ。「解離性健忘」の十分なボリュームと内容のテキストは、すでに米国の多くのエキスパートの合意が出来ていて、それがDSM-5の分厚い本(ポケット版ではなく)として出版され、その立派な日本語訳が出来上がっている。それをもとに書くことにどうしてもなりそうだが、そこに私の判断で何かを付け加えたり、訂正したり、という様な余裕などあるのだろうか? まあ最初はDSM-5のテキストを参照するという所から始めよう。

解離性健忘は2013年のDSM-5のテキスト(日本語訳)では、以下のように定義されている。( )内は私のつぶやきだ。

解離性健忘

Dissociative Amnesia

A 重要な自伝的情報で,通常,心的外傷的またはストレスの強い性質をもつものの想起が不可能であり,通常の物忘れでは説明ができない(まあいいか。でもストレスの性質が強くないことだって健忘の対象になるよね。自伝的情報、はautobiographical informationの訳だが、間違いではないけれどわかりにくい。「個人史に関する情報」のほうがいいか。)

: 解離性健忘のほとんどが,特定の一つまたは複数の出来事についての限局的または選択的健忘であるが、もしくは,または同一性および生活史についての全般性健忘である(添削が始まってしまった。)

B その症状は,臨床的に顕著な意味のある苦痛,または社会的,職業的,または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている(significant は「相当の」という風に訳すべきだろう。)

C その障害は,物質(:アルコールまたは他の乱用薬物,医薬品),または神経疾患または他の医学的疾患(:複雑部分発作,一過性全健忘,閉鎖性頭部外傷・外傷性脳損傷の後遺症,他の神経疾患)の生理学的作用によるものではない

.D その障害は、解離性同一,心的外傷後ストレス障害,急性ストレス障害,身体症状症,または重度ないし認知症または軽度認知障害によつてうまく説明できない

コードする時の注;解離性とん走を伴わない解離性健忘のコードは300.12(F44.0)解離性とん走を伴う解離性健忘のコードは30013(F44.1)

▼ 該当すれば特定せよ 300.13.(F44.1)解離性とん走を伴う:一見意図された目的をもった旅行や当てのない道に迷った放浪のように見え,自分のアイデンティティ同一性 または他の重要な自伝的情報の健忘を伴うもの