書き直しといっても、全体の再構成というわけではない。これまで書いていなかった治療指針について、「柴山文書」を借りて書き直す。
トラウマの治療一般に関しては、Hermann のトラウマからの回復の3段階という概念が参考になる。それらは①安全や安定の確立,②外傷記憶の想起とその消化,③ 再結合とリハビリテーションである。解離性健忘の治療もおおむねこの路線に沿うことができる。
第 1段階 :安全や安定の確立 解離状態にみられる不安や恐怖を和らげ, 安心感や安定感をもたらすことが中心となる段階.まずは生活環境を安全なものとする. ケースによってはこのような「居場所」の確保が発症とともに治療において も重要な要素となっている.
第2段階 :外傷記憶の想起とその消化
自らの外傷記憶に向き合い,それにまつわる不安や恐怖を和らげ,それを克服するこが中心となる段階。第1段階がある程度達成されれば,次に過去の出来事を消化する作業が必要になる.症候的にも安定しないような状態や治療者 との信頼関係がみられないような状況では,この段階に着手することは困難である。それがある程度克服できた段階で徐々に過去の出来事について周辺領域から話題にすることもよいであろう。ただし解離性健忘の場合、この想起が不可能な場合が多く、治療者や家族はそれを強いるべきではない。しかし過去の生活歴が当人の目に触れないようことさら周囲が気を遣うことも治療の妨げとなる可能性がある。あくまでも本人の想起したいという意欲に沿う形で周囲が協力するのがいいであろう。
個人年表づくり
当人の社会復帰に応じて、当人の過去の生活歴の中で知っておいたほうが適応上好ましい出来事は、知識として獲得したほうがいい場合がある。本人の通った学校やそこでできた友達、当時はやっていた事柄、社会状況などについては、当人が抵抗を示さない限りにおいてはリストアップし、年表を作ることも助けとなる。またその過程で自然と想起される事柄もあるであろう。ただしその際に不可抗力的に過去のトラウマ的な出来事が想起された際はそれに応じた治療的な介入も必要となろう。
第3段階:再結合とリハビリテーション 日常生活における不安や恐怖を克服し,常生活に積極的に関与する段階.この段階はこれまで不安や恐怖によって避けていた常生活の範囲を次第に広げ,様々なストレに対して うまく対処することができるようになる.全生活史健忘の場合、当人の社会的な能力は保たれていることが多く、特に過去に獲得して失われていないスキルや能力を活用して社会復帰につなげる努力はむしろ重要であろう。