2021年2月10日水曜日

CPTSDのエッセイ 2

  さてこの両陣営の「綱引き」は実に不思議な現象と言えるが、これは解離という現象に独特な事情があるのかもしれない。解離はそれを扱うことを臨床家に躊躇させるような何かがある。PTSDの治療にはプロトコールがあり、それを裏付けるような生物学的なメカニズムが明らかになりつつある。少なくともフラッシュバック、過覚醒症状などは脳生理学的な現象として検証することができる。そしてその治療手段としての暴露療法などもいわば認知行動療法の一つとしてプロトコール化することが可能であろう。ところが解離現象はそれが極めて主観的な訴えであり、しかも治療の対象とすべき患者自身がそれを否認したり隠したりする可能性がある。それと関係してか、解離症状や転換症状には、それが詐病ではないかという疑いがかけられやすい。ところがPTSDに関しては、それが詐病と疑われることは非常に少ない。

さてこの両陣営には現在歩み寄りが見られている。このことは非常に喜ばしいことであり、そもそもトラウマ関連障害として理解すべき両者は、一緒に論じられるべきものなのだ。DSM-5におけるPTSDの「解離タイプ」が掲げられたことでその趣が変わってきている。これはPTSD研究により、患者の示す生理学的な所見に二つの異なるタイプが提唱されたという事情があり、そこには間違いなく、ポリベイガル理論が影響している。そしてCPTSDはこの両者の歩み寄りをより促進するべきものと考えることが出来るのだ。CPTSDには幼少時からの繰り返される外傷体験が前提となる。(ICD-11による定義は必ずしもそれは明らかではないことは不思議である。長期の捕虜体験などが筆頭に上がってくるからだ。)そして幼少時のトラウマに必然的に関連してくる解離はそこに最初から組み込まれていることになるからだ。ただしそれは診断基準からはあまり明らかではない。以下は復習だ。

CPTSD = PTSD RE+AV+TH + DSOAD+NSC+DR) 

つまりCPTSDPTSDの拡大版であり、それ自体がPTSDの診断基準を飲み込んで、そこにDSOが加わった形になっている。ちなみにDSOとは自己組織化の障害disorder of self organization ということである。

頭文字に関しては以下の通り。

RE: re-experiencing 再体験

AV: avoidance of traumatic reminders 回避

TH: persistent sense of current threat that is manifested by exaggerated startle and hypervigilance 過覚醒

DSOは以下の3項目により構成される。

AD: affective dysregulation 情動の調整不全 

NSC: negative self-concept 否定的な自己概念

DR disturbances in relationships 関係性の障害