2020年7月12日日曜日

ICD-11 における解離性障害の分類 書き直し 6

解離症(総論)
1. ICD-11における解離症全体の特徴
 ICD-11は2022年1月に正式に発表される前の段階にあり、これまでも多少の変動はあった。それをWHOのサイトで限定公開されているICD-11 Guidelines. (Disorders Specifically Associated with Stress. Schizophrenia and Other Primary Psychotic Disorders) に従って紹介する。
 まず解離性障害全般に関する定義としては以下のように述べられているが、これまでのDSM,ICDによる定義とおおむね一致している。
「解離性障害は、アイデンティティ、感覚、知覚、感情、思考、記憶、身体の運動または行動の統御のうち一つないしそれ以上に関して、正常な統合が不随意的に破綻したり不連続性を呈したりすることを特徴とする。」

もちろんここには薬物や神経学的な疾患による二次的なものを除外するというただし書きが続くが、本質部分はここに尽くされている。そして2020年7月段階で提案されている解離症(6B6Z)には以下の8つの下位分類が示されている。

6B60 解離性神経症状症 Dissociative neurological symptom disorder
6B61 解離性健忘 Dissociative amnesia
6B62 トランス症 Trance disorder
6B63 憑依トランス症 Possession trance disorder
6B64 解離性同一性症 Dissociative identity disorder
6B65 部分的解離性同一性症 Partial dissociative identity disorder
6B66 離人感・現実感喪失症 Depersonalization-derealization disorder
6B1Y そのほかの解離症 Other dissociative disorder

これらの全体の特徴について、これまでに発表されたDSM-5及びICD-10における解離症の分類との比較から、以下の点を挙げることが出来る。(ちなみにその内容はReed, GM, First, MB, Kogan, CS et al (2019) を参考とする。)
Reed, GM, First, MB, Kogan, CS et al (2019) Innovations and changes in the ICD-11 classification of mental, behavioural and neurodevelopmental disorders. World Psychiatry 18(1):3-19.
● ICD-10 及びDSM-5で転換(変換)症conversion disorder などとして用いられていた「転換 conversion」や「内因性」という表現が見られず、解離性神経症状症 dissociative neurological symptom disorderという、より客観的で記述的な表現が採用されている。すでにDSM-5でも「変換症」に「機能性神経症状症 functional neurological symptom disorder」という表現が併記されていたが、それと歩調を合わせた形になっている。従来は心的ストレスが身体レベルに転換 convert されたものと理解されたものが、より医学的、脳科学的な基盤を持つものとして神経内科的 neurological 診断と並行して扱われるべきであるとの意図が著されているという(Stone, et al, 2014)。

Stone,J, Hallett, M., Carson, A. et al.(2014) Functional disorders in the Neurology section of ICD-11 A landmark opportunity. Neurology. 83(24): 2299–2301

● 解離性遁走が独立した障害ではなく、解離性健忘のもとに分類された。これもDSM-5と同じ方針である。
● ICD-10では「憑依・トランス障害」とされたものが「トランス障害」と「憑依・トランス障害」とに分かれた。後者は外的な憑依的アイデンティティ(霊魂spirit、威力power、神的存在deity、そのほか)が支配するという点が前者と異なるとされる。ちなみにDSM-5では憑依体験は解離性同一性障害において生じるものとされる。またDSM-5では「解離性トランス」は「他の特定される解離症」の例の一つのとして登場している。
● ICD-10において見られた「多重人格障害」は『特定されない解離性障害 unspecified dissociative disorders』の例の一つとして挙げられていたが、ICD-11ではDSMに合わせた形でより現代的な「解離性同一性障害」という呼称を与えられ、独立した障害に格上げされたことになる。
● ICD-11では新たに「部分的解離性同一性症 partial dissociative identity disorder」が掲げられているが、この障害においては、支配的な人格の意識や機能に対して、一つの人格部分としてのまとまりを欠く被支配的な人格部分(いわば「中途半端な人格」)侵入を行うケースである。
● ICD-10においては「F48.その他の神経症性障害」に分類されていた「離人・現実感喪失症候群」が新たに解離性障害の中に組み込まれた。