まずは心のデフォルト状態、ということから考えたい。英語の「デフォルトdefault 」、とは不履行の、とか怠慢な、というあまりよろしくない意味を持つが、最近ではコンピューター用語での「初期設定の、手つかずの」といった意味の方が広がり、一般化している。心のデフォルト状態、と言った場合も、特に何も手を付けていない、何もしていない、という意味で用いることが多い。
これまでの議論では自然も、生命現象も、そして神経細胞も、特に何もしていなくても、自然と揺らいでいる、というニュアンスで論じてきた。そもそも揺らぎがそれらに本来備わった性質なのである。そしてそれは心そのものについても当てはまる、という話から始めたい。心はデフォルト状態からして、揺らぐという活動を行っているのである。
そもそも私たちの脳は、「何もしない」「何も考えない」という活動はありえない。少なくとも脳は何も目立った活動をしていなくても、莫大なエネルギーを消費して「活動」を行っている。それは現在の脳科学では常識になりつつあるが、その知見も比較的最近になって得られたことだ。
ちなみに脳のエネルギー消費、と聞いてもピンとこない方もいらっしゃるかもしれない。脳の重量は体重の2.4パーセント程度だ。しかしそれが私たちの体が消費するエネルギーの20パーセントを占めているという。大変な活動を常に行っているわけである。
Gershgorn, D (1916) IBM Research
Thinks It's Solved Why The Brain Uses So Much Energy.It's exploring itself
第2部では、脳の揺らぎというテーマを扱ったが、そこで出てきたのは脳波であり、それは多数の脳細胞の集まりから発している信号の話であった。しかしここで問題にしているのはあくまでも個々の細胞の話である微小な神経細胞の一つに電極を指してその活動を知ることは、頭皮に電極を当てるよりもさらに高い技術を必要とする。その波形の持つ不思議さがようやく最近になって注目されるようになったわけだ。そしてここにも揺らぎのテーマが出てくるのである。