2020年4月3日金曜日

揺らぎ 推敲 33


心の現象としてのアトラクター 

心理学的に見たアトラクターの問題とは何か? 実は心とか意識という現象自身が一つの大きなストレンジ・アトラクターとさえいえる。しかしいきなりそんなことを言っても読者を混乱させるだけなので、もう少しわかりやすい話から入る。
私たちの多くが、ある考えや習慣に固執し、それを変えるのはとても難しいという経験を持っている。要するに何事かにハマってしまうことであるが、これはひとつのアトラクターといえる。そしてそれは個々人がまったく固有に、個性的な形で有しているアトラクターだ。つまり人によりハマる対象が異なるという事である。私たちは大抵は他人がなぜ特定のものに嵌まるのが理解できない。そして何より、自分があることになぜ嵌っているかがわからない。ただし私たちは自分がはまっているものについては、その理由を追求したり、不思議に思ったりはしないという傾向がある。
ある新興宗教を信じていた人が、教団内で起きていたさまざまな非倫理的、ないしは犯罪的な問題のために教団を去ることを余儀なくされた。しかし決してその捕らわれの身となり死刑が宣告されたもと教祖の影を心から追いやることが出来ない。理屈から考えたらその教団から足を洗うことが自分のためにも周囲のためにも重要であると分かっていても、それが出来ない。アトラクターが井戸のように深く穿たれていて、決して出てこれないからである。精神現象が結局はニューラルネットワークにおける興奮のパターンだとしたら、それはおそらく膨大な数のアトラクターを有し、それ全体がひとつのストレンジ・アトラクターを構成していると考えざるを得ない。