分かることとは脳がシンクロナイズ(同期化)すること
ここで一つ補足説明が必要かもしれない。脳の活動を理解する際に、ひとつの決め手はそこで生じている脳波がどの程度同期化しているかどうか、ということだ。脳波計は大脳皮質で起きているさまざまな信号を拾うのであるが、普通はそれぞれの部位がバラバラな活動をしている。ところがある事柄について、それを一つのもの、ないしは同じものと見なすという現象は、脳のある部分が一緒になって同時に活動していることを意味する。例えばAとBが、実は同じ物体だということが分かった時、両者に関する信号は同期化するのである。
このことをもう少しわかりやすく説明しよう。私たちがある遮蔽物の上下で動く物体をみるとする。その際上下の物体は互いに別々の方向に動いていると認識されるため、視覚野においてそれぞれに反応している部位は、ばらばらの信号を出す。ところがその遮蔽物を通して、上下のまるがつながっていることが分かった場合、視覚野における上下の物体に反応した部位は、同期化する。つまりは脳波の位相(山と谷の位置)が一致するのである。(これに最適の図をどこかの本で見たが、あいにく見つからないので省略。)
もう少し身近な例を出そう。小さいころ親しくしたAさんという友達がいるとしよう。そして20年後にたまたま出会った人と話しているうちに、それがAさんであったということを知ったとする。すると幼少時のAさんに関する記憶と、目の前でそれまで別人と思って話していたAさんに関する記憶は突然重なるのであるが、その際脳波は位相を揃え出すのだ。その時私たちは「あ、そうか! Eureka!」という体験を有することになる。すべての事柄がつながったという感覚、それまでバラバラにしか認識できなかったことが一つにまとまった体験。刑事事件でそれまで断片的であった証拠が、ある犯人が特定されることですべて繋がった時の感覚。これを人はたとえば「ジクソーパズルのピースがはまった」という言い方をするが、感覚的にはその通りなのである。