2017年7月1日土曜日

脳科学と精神療法 ①

 「最新の脳科学の知見と精神医療の融合」という御題を最初にいただいたのを、「脳科学と精神療法」に変えてやらせていただきます。1時間ぐらいお話をして、それから質問をしていただく時間にしたいと思います。はっきり言ってどういうふうに話が進んでいくのか自分でも見当がつかないです。うまく私が思っていることを表現できるかちょっと自信がないです。
 その前に自己紹介的にいいますと、私は思春期、青年期の関わりというのは結構あって、メニンガークリニックにいた時に精神分析のトレーニングをしながら務めていたのが思春期病棟と青年期病棟でした。思春期病棟というのは12歳から17歳までの子どもが対象で、みんな大変暴力的な、アグレッション満々の患者さんばかりで、いかに暴発した患者さんを一時的に隔離する保護室の使用回数を減らすことができるかということが深刻な問題でした。思春期の子どもたちと格闘する毎日を3年間過ごしました。青年期というとその上ですけれども、青年期病棟は客層が全く違い、18歳を機にポピュレーションが全く違うんだということにびっくりしたということを覚えています。そこからは統合失調症の世界なのです。そういう意味で今日ここでお話させていただくことに関して、私が経験ということをお伝えするとしたらそのことが挙げられます。そして、脳科学と精神分析の両方に関心を持っているということでこのテーマをお話させていただきます。
 今日の発表では、新無意識 new unconsciousをキーワードにお話したいと思います。精神分析に限らず、心理療法一般では、療法家はいろいろなことに因果論を持ち出す傾向にあります。「あなたのこれはこういう意味がある」、「あなたの過去はあなたの今のこういう行動に反映している」みたいな意味づけをするということがすごく多いのです。漠然とした因果論や、根拠が不十分な象徴的な意味づけは、精神科医でも心理士でもある程度は避けられないでしょう。この因果論に基づいた思考には長い伝統があり、脳科学の知見とはなかなか融合しないという事情があります。精神科医となると薬を使うものですから脳科学的なことは十分わかっていなくちゃいけないんだけれども、同時に臨床の場面での患者さんの振る舞い、言動というのは生もので、非常に難しくて複雑で混とんとしている。混とんとして予想不可能な患者さんを扱うために、因果論、理由づけ、象徴的な意味を生み出す解釈みたいなことを一生懸命使っているわけです。
 私の今日の話は、結局脳ことが「こんなにわからないんですよ」ということをたくさんお話しすることになります。ただ私達は漠然とではありますが、脳の働きを理解しつつあります。それを「新無意識、ニューアンコンシャス」という形で呼ぶようになって来ています。実はそのような題名の本が出版されています。そこで今日は、このニューアンコンシャスという考え方に基づいて眺め直そうということです。