2017年3月19日日曜日

精神療法の強度 推敲 ②

 先ず私の立場を表明します。私の立場は精神科医であり、精神分析家であります。まず精神分析家としての私は、週に四回のセッションも、週に一度50分のセッションも実際に行っています。これは精神科医としての仕事とは別に設けられた時間と場所で行っています。しかし精神科医の私の臨床の中では、週一度はとても贅沢な構造です。そして私の週二日の精神科外来のように、8時間の間に30人強のペースで患者さんと会うというスケジュールでは、その中で週一度を維持することには大きな制約があります。そこで私が比較的贅沢に行なえている精神療法は、毎週、ないし二週に一度20分ないし30分です。他の患者さんに対しては、平均して10分、15分以内、時には5分間で診療を終えて次の患者さんを呼び入れなくてはならないという事情がありますから、立場ではかなり無理をしたスケジュールです。
 そしてこの、一回のセッションに50分取れないという事情は、もちろん他の精神科医にも共通している事情ですが、実は臨床心理士についてもいえます。私は心理士さんたちと組んで臨床を行っていますが、それは私の精神科の患者さんの大部分は定期的な精神療法を必要としている方々です。そして彼らもとても50分に一ケースではまわって行きません。心理士さん達には一時間に二人会っていただいています。つまり私の実践している精神科医と心理士の共働では、12週間に一度、30分のセッションというのが、事実上のスタンダードになっています。これは私が知っているもう一つの世界、すなわちトラウマティックストレス学会で出会う精神科医の先生方も話していることです。「通院精神療法では、二週に一度30分が上限ですね」でだいたい意見が一致します。この二週に一度30分、というスタンダードが事実として存在するものの、だれもそれを精神分析的とは呼んでくれないという事情があるのです。
でも私は二週に一度、30分でも大まじめで分析的な精神療法をやっているつもりなのです。もちろんそれは週4回、ないし週1回50分と比べて、かなりパワー不足という印象は否めません。たとえて言えば、精神分析という四輪駆動や、週一度というSUVほどには走れない、いわば軽自動車という感じでしょうか? でも軽自動車でもそれなりの走りはしていますし、精神分析的な治療という道を、それなりにトコトコと走って行っている気がします。私も「それならばお乗せできますよ」と思っているし、患者さんも「それくらいならガソリン代が払えますよ」、と言ってくれるのです。ですから私は軽自動車で多くの患者さんと出会って、それなりに満足しています。
 どうして私はそのように感じるのでしょうか?それは私はその構造いかんによらず、分析的な心の動かし方をし、同じような体験がそこに成立していると考えるからです。このことについてもう少し順序立てて説明いたしましょう。