2016年8月30日火曜日

推敲 13 ⑤

放火ハイ
困ったことに・・・・人の家に火を放ってハイになる人がいる。彼らは放火癖、ないしは巷では放火魔、と呼ばれる。 
 そんなある少年の話をしよう。彼は小学生のころ、近くで起きた家事を見たときに不思議な興奮を覚える。どこかに高揚感があったのであろう。ライターの炎を見ていると吸い込まれるように感じ、手を離さずに火傷したことも何度かある。最初は火を見る時の快感をあまり異常とは思わなかったが、消防士という職業を知り、漠然と憧れるようになる。
 実はアメリカには一つの都市伝説がある。それは消防夫のかなりの割合が放火癖であるというものだ。もしそうだとすると彼らが一所懸命消している火事の一部は、彼らの仲間の誰かが火をつけていることになる。そしてもう少し想像力を果たせるならば、彼らはお互いにだれが放火をしているかを知っていて、もちろん誰にも口外しない。放火犯として捕まってほしくないのだ。彼らはいずれにせよ仕事がしたいのだから。
ここまで書いて急いで断っておく。以上は都市伝説でしかない。消防士のほとんどは善良な市民であり、火事から人を守るために献身的に働いてくれているのだ。その中で極めてまれに、放火癖が紛れ込んでいるという可能性があるのだろう。
消防士イコール放火癖、という都市伝説は嘘であるということを後程証明するための記事を紹介するが、その前に放火癖について復習したい。心の病の最新のマニュアルであるDSM-5には以下の診断基準が掲げられている。
A. 2回以上の意図的で目的をもった放火。(一回ではダメ、ということか。)
B. 放火の行為の前に緊張感または感情的興奮。(ほとんどの「ハイ」につきものである)
C. 火災およびそれに伴う状況(例:消防設備、その使用法、結果)に魅了され、興味をもち、好奇心をもち、ひきつけられること。
D. 放火した時の、または火事を目撃したり、またはそこで起こった騒ぎに参加する時の快感、満足感、または開放感。
E. その放火は、金銭的利益、社会政治的イデオロギーの表現、犯罪行為の隠蔽、怒りまたは報復の表現、生活環境の改善、幻覚または妄想への反応、または判断の障害の結果〔例:認知症、知的障害(知的発達症)、物質中毒〕によってなされたものではない。
以下略。(以上『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)による。)
ニューヨークタイムズに面白い記事があったから紹介しよう。
Do Firefighters Like to Set Fires? Just an Urban Legend, Experts Say By ERICA GOODE New York Times,  July 9, 2002


2000年ごろ、山火事を起こしたことで捕まった二人が、それぞれ消防団に属していたこともあり、上記のような都市伝説が生まれたらしい。しかし司法精神医学の専門家は、消防夫は放火を犯しやすいというデータはないということである。(つづく)