2015年5月14日木曜日

精神医学からみた暴力(推敲後)5

3.現実の攻撃が性的な快感を伴う場合

これは最新号の文芸春秋(5月号)を読んで非常に重要な要素であると考えた。例の神戸市の少年Aの家裁審判「決定」全文が載せられている。これを読むと、一見ごく普通の少年時代を送った少年Aが猟奇殺人を起こす人間へと変貌していく過程を見る気がする。米国ではジェフリー・ダーマーというとんでもない殺人鬼がいたが、彼の父親の手記を読んだときと似たような感想を持った。思春期を迎えると、悪魔に魅入られたように残虐な行為に興奮し、性的な快感を味わうようになる。少年Aの場合は、性的エクスタシーは常に人を残虐に殺すというファンタジーと結びついていたという。
私たち人間にとって性的ファンタジーは始末に終えないものだ。一生これに縛られて生きていく。一生は大げさかもしれないが。そして性的志向が誤った方向に向けられる運命を背負った人間は悲劇であろう。性的志向性はおそらく生物学的な要素が主たる原因であろうが、その大半は成人異性に向けられ、その一部は成人同性に向けられる。それ以外に向かう場合には社会との軋轢は必至であろう。しかしおそらく正規分布の端にはあらゆる対象が存在しえ、そこには少年Aのように幼児の殺害が選ばれる。いったいそのような運命を担ったらどうやって生きていけばいいのだろうか?おそらく全人類の一定の割合は、ネクロフィリアを有し、猟奇的な空想をもてあそぶ運命にあろう。彼らはみな少年Aのような事件を起こすのだろうか?ここからは純粋に想像でしかないが、否であろうと思う。おそらくそれ以外は善良な市民であるその人はそれを一生恥じ、隠しているか、あるいはSMクラブに出入りして、そのうち羽目を外して出禁になってしまうのではないだろうか?


4.突然「キレる」場合


どのように普段穏やかで、また更生が進み行動上の改善がみられ、反省の言葉を口にするようになっても、それを帳消しにしてしまうような、この「キレる」という現象。秋葉原事件の加藤は、人にやさしく、サービス精神を発揮するような側面がありながら、中学時代から突然友人を殴ったり、ガラスを素手で叩き割ったりするということがあった。池田小事件の宅間守などは、精神病を装ったうえでの精神病院での生活が嫌で、病棟の5階から飛び降り、腰やあごの骨折をしたというが、これも自傷行為でありながら「キレた」結果というニュアンスがあろう。一体キレるというこの現象は何か。DSM-5の診断基準では、「間歇性爆発性障害」というおどろおどろしい名前がついているこの障害は、実はおそらくあらゆる傷害事件の背景に潜んでいる可能性がある。

そこで私が考えるのは以下の結論だ。1.怨恨による、あるいは仕返しによる場合。2.相手の痛みを感じることが出来ない場合。3.現実の攻撃が性的な快感を伴う場合。4.4.突然「キレる」場合という四つを述べたが、おそらくこれらは複合しているのだ。いくら殺人空想により性的快感を得ても、それが決して実行すべきことでないということがわかれば実行はしないはずだ。ということはおそらく少年Aには、3に2が、そしておそらくは何らかの形で1が並存していた可能性はないだろうか?そしてそれらすべての背景に4.が潜んでいる可能性もある。

 治療的介入

 暴力はどのように防ぐことが出来るのであろうか?自らの暴力を抑える力が損なわれているものの、それを反省し、通常は善良な市民生活を送れる人の場合には、何らかの改善の余地はあるだろう。しかし反社会的パーソナリティ障害、サイコパス、犯罪者性格などといわれる人々に対する治療はないとされてきた。
ただしかつては彼らを治療しようというヒロイックな試みもあった。1960年代にアメリカのある精神科医が治療的な実験を行ったという。彼が考えたのは、「サイコパスたちは表層の正常さの下に狂気を抱えているのであり、それを表面に出すことで治療するべきだ」ということだった。その精神科医は「トータルエンカウンターカプセル」と称する小部屋にサイコパスたちを入れて、服をすべて脱がせ、大量のLDSを投与し、お互いを革バンドで括り付けたという。そしてエンカウンターグループのようなことをやったらしい。つまり心の中を洗い出し、互いの結びつきを確認しあい、涙を流し、といったプロセスだったのだろうと想像する。そして後になりそのグループに参加したサイコパスたちの再犯率を調べると、さらにひどく(80%)になっていたという。つまり彼らはこの実験により悪化していたわけだ。そこで彼らが学んだのは、どのように他人に対する共感を演じるか、ということだけだったという。
このような悲観論を代表するものとしては、1970年代に有名なアメリカのマーチンソンの研究があったという。それによれば犯罪者の治療は何をやっても効果がないという研究結果を伝え、それからアメリカは犯罪の厳罰化の方向に動いたという経緯があった。
 その後脳の画像技術が進み、それとともに暴力的な犯罪者は脳の器質的な変化を伴っている可能性があることが明らかになり、それが治療的なペシミズムを推し進めた。薬や精神療法によって彼らの脳の構造を改善するのは不可能、というわけだ。
最近の研究に次の様なものがある。
「殺人やレイプや暴行により起訴された人々たちの脳のスキャンにより、サイコパスたちは特異な脳の構造を有していることがわかったという。ロンドンキングスカレッジの精神医学研究所のブラックウッドらの研究によると、そのような所見は彼らをその他の暴力的な犯罪者とも区別するほどだそうだ。それが内側前頭皮質と側頭極の所見である。これらの部位は、他人に対する共感に関連し、倫理的な行動について考えるときに活動する場所といわれる。サイコパスたちの脳は、これらの部分の灰白質(つまり脳細胞の密集している部分)の量が少ないという。」
http://www.reuters.com/article/2012/05/07/us-brains-psychopaths-idUSBRE8460ZQ20120507
Study finds psychopaths have distinct brain structure